□転生令嬢
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転生した。
それも魔力のある世界で、貴族に。

ただ、それでも人の営みってあんまり変わらないんだな、と分かったのはデビュタントだった。

人より少ない魔力で産まれたせいか、今は高くても産まれた時の魔力が低いとからかわれる。
そして、魔力のある世界だとそれは一種のステータスだと思われる。

ただ、何かがおかしいと感じたのは、結婚してからだった。
最初は愛してると言ってくれた夫も、使用人達も、そして息子も。
ある日突然自分を無視するようになる。
実家でもそうだった。
意味が、分からない。
ただ、そうしている内に病に倒れ、死んできた。

そう、もう何度もループしている。
何度も違う道を行けないかと試しているが、結局は夫の元に嫁がされ、子供を産み、ある日突然愛情が無くなり、一人で死んできた。

わたくしは何か悪い事でもしたのでしょうか。
前世だって普通に生きて、ある日突然交通事故で死んだ。

苦しみの中何度も何度も同じ事を辿る。
どんなに違う事をしても決められた物語の中にいるみたいにずっと、ずっと。
そうしている内に、疲れた。

今までやらなかったこと。
一つだけある。
それは妹達が癇癪を起こす度にしていた事。
魔力でその辺を破壊する、だ。
ただ、リスキーではある。
恐らくあまりに大きな破壊だと今度は恐れられる可能性はあるが…もう知った事ではない。
何度か癇癪を起こしていい場面はあった。
2度、我慢した。

…仏の顔も三度までというしね。

なので、三度目で、無意味に叱る父親の執務室を破壊した。
耐えた状態のまま。

「…お話し、は、それで、終わりですか。」
「は!?へ!?」
「お話しは、以上、かと、聞いています。これ以上は、屋敷を破壊しかねませんので、退室しても、宜しいですか。」
「っ!!!」

握りすぎた手から血が垂れる。
今までそれを見て笑う人が多かったが。

「お、お嬢様!お手が!!」
「結構よ。今まで笑ってばかりで心配もしなかった者達の心配など必要ありません。…食事や生活の時間は家族とずらして行います。これ以上は、本当に抑えられませんから。…そこの侍女。」
「ユ、ユミと申し…」
「名前など聞いていません。今までわたくしを蔑んでいた者の名など必要ない。料理長並びにマーラック夫人に伝えなさい。食事内容を改善しなければ、わたくしはもう我慢しないと。では、お父様。失礼致します。」
「ま、待ちなさいレティシア!!」

無視。
妹達が許されてわたくしが許されない道理はない。
部屋に戻り、ハンカチーフを手に巻く。
いつも通りの対応。
ふと、見回した自分の部屋。
何もない。

これを見た夫となる婚約者は一度も笑った事はない。
だが、恐らく心の中では嘲っただろう。
そんな、婚約者も要らない。
そして、もう。
こんな自分の趣味じゃない部屋も要らない。

「そこの、侍女。」
「は?」
「家具を買いたいから商人を呼びなさい。」
「はぁ?なんで…」

ああ、使用人全員に回るにはまだ早いか。
母親と妹達は毎日無駄にお茶会に出てるから騒ぐ人が少ないのよね。

「…」

自分の部屋を丸ごと吹き飛ばす。
近くまで来ていたのだろう。
また父親がやってきた。

「レティシ……っ!?」
「お父様。この辺にいる侍女は仕事が出来ないのですか?」
「そ、そんな、事は無いぞ?どうした?」
「何もかもが気に入りません。何故産まれたばかりの頃の魔力が低いからと蔑まれなくてはなりませんの?使用人にまで。侯爵家はそのような下賎な者を使用人にしていたのですか?」
「勿論違う!何が欲しかったんだ?言ってみなさい。」

がらりと変わった父親に、全員が驚いている。

「部屋の模様替えと、気に入る物を揃えたかったのですが。呼びつけても口答えするばかりでしたので我慢なりませんでした。…全部吹き飛んでしまいましたね。わたくしの寝る場所すらありませんわ。」
「っ…」
「それと。表面に出さずともわたくしを蔑む婚約者も要りません。」

そもそも我が家に取り入りたい伯爵家の次男だ。
長女のわたくしが嫁にいく相手ではない。

「…伯爵家なのですから、レティーニアが丁度良いでしょう。」
「…、そうだな。」

教師達はまだマシだった。
教養を教えに来ていて、それらを完璧には終わらせたのだから。
だから彼等の評価は「魔力が低くなければ惜しい…」だったのだから。

「そうだな、三階の部屋にしようか?」
「嫌です。アミリア達と同じ階なんて。姉を敬わない妹など要りません。あの子達の事でどれだけ耐えてきたか…」
「ああ、すまない。お前がしっかりし過ぎていて甘やかしてしまったかもな。おい、そこの。」
「はっはい!旦那様!」
「四階の景色の一番良い部屋をレティの部屋にしろ。今すぐだ。商人も呼べ。仕立て屋もだ!」
「はっ、はい!すぐに手配致します!!」

もう何度か分からないループ。
今まで耐え忍んで来て、魔力を伸ばすやり方があると知ったのはいつだっただろう。
今回はすぐにやった。
まだ13歳。
ここから、変えていく。

「…本当に景色良いわね…」
「お、お嬢様。」
「何。」
「その、お手をお怪我されていますので…手当を…」
「…ああ…」

さっきのユリって子ね。
歳がわりと若い侍女だ。
わたくし付きの侍女はいなかった。
一番強い爆発を目の当たりにしたから取り入っておきたいのかやはり一番に現れたわね。

「ユリ、と言ったわね。」
「はっはい!!」
「良いわ。手当てをなさい。その代わり、ほんの少しの粗相もこれからは見逃せない事だけは覚えておきなさい。」
「はっはい!!」

魔力を見せただけで、変わった。
それも180度。
癇癪は家だけに留めておかなくてはね。
社交界は魔力だけではない。
身なりから何から何まで見られる。
地味で飾り気がないのは家族から虐げられていると見られる。
エスコートなく会場に入れば婚約者に疎まれていると思われる。
ループの何度も彼はレティーニアを後妻に迎えていた。
わたくしが生きているのにも関わらず。
なら最初からくっ付けてあげれば良い。

わたくしがここに居ると知ればうるさいだろうけど、母親もまた変わるはずだ。
高い魔力を持っていると知れば、ね。
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