□転生令嬢
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ランドレイシア

魔力がある世界。
前世の記憶があるわたくしはこの世界が少しおかしいと思う。
とはいえ前世とは違う世界なので、その違和感もそのせいだと理解している。

この世界は一度生命の絶滅の危機に瀕した事がある。
魔物もいる世界で、生命の誕生バランスがとにかく悪かったのだ。
その為神々は元からいた男女の「生殖機能」を男女共に付けた。
所謂両性具有だ。
それにより、男も妊娠し、女も種付けが出来るようになった。
それにより、人間とエルフ等の亜人種族はあっという間に増えた。
魔族もそうだ。
ただ、増えすぎても困る為、常に両性具有50、どちらか一方しかない30、「特殊条件」が20の割合で産まれるようになった。
そのせいで、現在一番最も少ないのが獣人である。

獣人だけはそもそも産まれる数が多いせいか両性具有になりにくいし、特殊条件を有する場合が多くなった。
むしろ特殊条件しか持たない。
困った獣人族は神へ何とかして欲しいと願い、更に困った神様は獣人の「特殊条件」の対を人間にも産まれるようにした。
それが、獣人と「花人」と呼ばれる特殊体質を持つ人間の始まりである。

話しを戻そう。
両親共に両性具有で、そして同時に妊娠すると必ず一方は「花人」となる。
今世でのわたくしも普通の人間だと思っていた。
ええ、成人する今日まで。
同じ日に産まれた兄は母から産まれ、わたくしは父から産まれた。
まぁそこはこの世界では普通であるのでもう何とも思わない。
人によっちゃ両親共に男とか、両親共に女とか良くあるから。
ただ、両性具有が割合が多いため、そうでない人もいると学ぶけれど何故か単性(どちらか一方しかない人をこう言う)を卑下する。
勿論産まれてからこの日まで両親も愛はあれどぞんざいだったし、兄なんてもっと酷かった。
ただ、デビュタントである15歳のこの日。
世界は一変する。

まず親友というものが出来た事。
単性タイプは少ない。
だからこそ、お互い何となく分かるもので、デビュタントの夜会に出た時、言いようのない感覚を得た。

プリシラに会えた事は幸運だった。
思わずお互い一目見てがっしりと握手を交わした事は死ぬまでの笑い話である。

ただ、周りの目も変わったのもこの日だった。
早々に話し込んでいたわたくしとプリシラ。
国王陛下の演説を聞いた後。
不意に身体が熱くなり、プリシラと二人でソファに避難した。

「さっきから甘い匂いがしません?」
「そうですよね…」

徐々にそれがキツくなる。
二人で口と鼻を押さえて動けなくなった。
そして…

「…花人だ…」
「「?」」

誰かの呟きに辺りが静まった。
そして、顔を上げれば、そこにいた全ての人の目がわたくし達を捉えていた。

「「っ!?」」
「なんと!花人が二人も!」
「早くクロフォード閣下を呼べ!」

ふと、わたくしにしがみついていたプリシラの頭に花が咲いているのが見えた。
白い花。

「レティの頭にもあるわよ?」
「ホントだ…」

お互い首を捻っていると。

「レティシア!!」
「プリシラ!」

お父様達が駆けてきた。
まぁ一応わたくしの腹の立つ兄も一緒に。

「はっ、魅力が少ないからと花を付けて誤魔化したのか?無駄な足掻きだな。」

悪びれもなくそう言った。
勿論プリシラの双子の妹も似た感じの表情だった。
だけど、いつもなら困った顔で宥めるお父様が…
兄を打った。
突然の事で驚いた。
穏やかなお父様がそんな事するなんて…

「お前は!妹になんという言葉を投げかけるのだ!」
「ち、父上?」

まぁ両性具有であっても、見た目性別で区分けられる為、男性は男性だ。
勿論女性は女性。
男が出産した場合、同じ時期に出産した女性の乳を飲ませるのが普通だ。
まぁうちはお母様がいるからわたくしはお母様の乳を飲みましたけども。
あれは苦行だったね…
赤ん坊の頃から記憶は残っているから。
しかし、そんな驚愕の現場も、一瞬で吹き飛んだ。
物凄く甘い匂いに身体が動けなくなったからだ。
それはプリシラも同じみたいだった。

「通してくれ。」
「「っ!」」

現れたのは宰相閣下だ。

「…どうだ。」
「ああ、漸く…」
「…」

2人、男性が見えた。
その瞬間。
景色とか、そんなの全部吹き飛んだ。
二人いる内の、少し背が低い方の男性。
その人しか見えなくなった。
切れ長の蒼い目に、白い肌、するんとしたストレートの薄い金の髪。

「…良く、生きてくれた。我が花人よ。」
「っ!」

一瞬で、この人意外の人は見えなくなった。
花が、身体中から溢れ出す。

「名を、教えてもらえるか。」
「レ、レティシア…です…」
「レティシア…」

そして、徐々に人の耳が消えて、頭にフサフサの獣耳が。
獣、人?
ひょいと抱えあげられる。
幼少期、ある本を読んだのを思い出した。

獣人の生態だ。
特殊体質の獣人は、自分のフェロモンを感じる人で無くては子を成す事が出来ない。
大昔、何故か獣人の女性が少なくなり、その特殊体質のせいで獣人は減りに減った。
獣人達の祈りを受けた神々は、人間の単性の一部に同じ対となる体質を与えた。
フェロモンに反応し、開花する花人。
どうしても見つからなかった時の為に50年見つからなければ単性の者に限りなんとか子を成せるが、花人が見つかれば子を成しやすい。
獣人の番となる花人は開花した瞬間から番の獣人と同じ寿命になる。

「…番が見つかりました。」
「僕もね。」
「うむ。すまんが二人の婚約は無かった事に。」
「仕方あるまい。」

ふと、見た所には物凄い形相の女がいた。
あぁ、あの人はこの人の婚約者として宛てがわれた単性の人なのね…

だけど、それ以上は無理だった。
むせ返る甘い香りに、わたくしは意識を飛ばしてしまったから。
甘い匂いと、安心する胸に初めて「安堵」という感情を覚えた。
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