内緒の時間

□世界変化
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ある日突然、この世界は変わった。
人間には特殊能力が宿り、動物は凶暴に、且つ人と同じ能力を使うようになった。
しかし、人間とは不思議なもので、そんな状況でも順応していく。

「…うっ…」

そして出来上がったのは能力の強さがものを言う世界。
弱者は強者に虐げられるのは当たり前となった。

私も、弱者側なのだろう。
昔から自分の言葉を伝えるのが苦手で。
それは能力を持っていても変わらない。
大きくなればなるほど、成長するのは身体だけ。

「見えない…足痛い…」

学校の帰り、魔物が街に入り込んだ。
警邏隊が来る前に、私は同級生から投げ飛ばされ、足を魔物にやられてしまった。
その時に眼鏡もどこかに飛んだようだ。
必死で思い出したのは隠れ家に使っている廃墟。
ビルのようだが、大量繁殖した木々によってポツンと孤立している。

「範囲…この建物…」

能力自体は良いものだ、と先生や能力査定官は言う。
強い力は身を滅ぼす。
分不相応にも程があると思う。
折れた足を、窓から調達した枝と自身の能力の一つの糸で固定する。

昔から裁縫が好きだった。
身体が鈍いから早く移動したかった。


周りは汚い物ばかりだから綺麗な物を見たかった。

そんな欲求からか、私に宿った能力は「瞬間移動」「幻覚」「糸」だった。
それも、どれも上位のもの、らしい。
一時期は政府からの使者とやらが頻繁に来て困った。
逃げるのに、色々飛んだ結果、ここを見つけた。

特に幻覚はかなり強いものだ。
それ位は疎い私でも分かる。
何せ現実に効果を及ぼすのだ。
例えばそこにカップラーメンがあるとする。
湯がなければ食べれない。
しかし、私の幻覚は強すぎてコンロがそこにあって、ヤカンで湯を沸かせる事が出来る。
ここまでは幻覚だけならカップラーメンは作れない。
しかし、私のは現実に効果を及ぼし、「湯は幻覚だが、実際には出来上がったカップラーメンが作れる」のだ。
名付けられた能力名は完全幻実。
幻も過ぎれば現実になるからそう名付けられた。
勿論効果の範囲や強弱も出来る。
そうしてここは他の人にはビルではなく木が立っている様に見えている筈だ。
糸も普通の裁縫の糸からカラフルな糸、鉄線まで出せる。
糸…ではなく細い糸状の物を出して操るが正しいらしい。
政府の能力研究はどうなっているんだろう…
そんな効果をすぐに割り出せるなんて。

「…やっぱりいたか。」
「っ!?」
「あ、あー、別に襲いたい訳じゃねぇよ。ただ、ここだけビルと木がごちゃ混ぜになってんのが気になっただけだからよ。」
「っ!?…ビル、が見えてる、んですか?」
「あ?ああ。?おい、足折れてんのか?」
「っ…」
「傷だらけじゃねえか。病院…は行ってねぇわな。」

誰だろ…初めて幻覚を見破られた。
自分よりも強い能力者には効かないようだ。

「まずは、足の手当てだろ。行くぞ。」
「え?」
「じっとしてろ。」

言うなりその人は私を抱えあげて、なんとビルから飛んだ。
しばらくして、普段は来ないような夜の繁華街に来た。
その中の、古い寂れた感じのビルに入ってきた。

「おい、オッサン。」
「レイジ…ドアを蹴って入るな。…ん?…お前!遂に誘拐を!!」
「ちげーわ。足折れてんだよ。」
「何?…これは…お嬢さん、魔物にやられたのかい?」
「…はい…」
「となると、さっきB地区に入り込んだ奴か…警邏隊が遅くて一般人が多少犠牲になったらしいな。」
「…え?」
「ちょっと知能が働く奴だったみたいでな。目撃者の証言じゃ、殺された学生は襲われる直前に同じ学校の女生徒を魔物の方…に…まさか!」
「…」

見てた人がいたのか…

「…私は、死んだ事になりましたか?」
「何?」
「ああ。魔物の爪に飛ばされて、「遺体」がまだ見つかっていないと報道されていたな。魔物が食ったかもしれないと…」
「…なら、家に帰らなくて良い、な…」

能力自体は強くても、私自身がこんなだから両親も兄も弟も私の事を疎ましがっていた。
家にも私の居場所は無かった。

「…あの…すいません…手持ちがこれしか無いんですが…」
「ん?」
「メガネを…メガネが無いと私何も見えなくて…」
「待ちなさい。先に足を…」
「いえ、大丈夫です…自分で傷は縫合しましたから…」
「っ!?…失礼。…これは…糸?」
「糸状のものなら何でも…骨も糸で固定してるから…」
「…なんちゅー荒療治を…」
「…慣れて、ますから…それに、人より治りが早いし…」
「…、お嬢さんは治癒能力が?」
「いえ、それは無いです。」
「…ちと待ってな。」

えと、何も見えない…

「ほらよ。こんなんで悪いけど、度合ってるか?」
「え、あ…ありがとう…ございます…」

メガネを掛ければまだぼやけるけど見えた。
そこには男の人がいた。
金髪…
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