内緒の時間

□転生令嬢、牧場主になる。
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初めまして、わたくしアールスローム王国の斜陽旧家伯爵令嬢レティシア・フィエル・クロノワールと申します。
前世は至って普通の女の子でした。
珍しい蛇さんがいたもんで、車に轢かれそうなのを助けたら、自分が死んじゃいまして。
しかも助けた珍しい蛇さんというのは、なんと別の世界の神様だったのです。
異世界観光旅行中だったらしく、助けた礼にと色々スキルを頂いた上で、この世界へ転生してきたのです。
ラノベ展開サイコー!

…というのが転生して一歳までの私。
実は産まれた伯爵家は、現在借金まみれの火の車。
先代のギャンブルの借金が残っていて、お父様達は毎日ひーひー言いながらなんとかやりくりしている状況です。
そんな状況ではマナーも何も…家庭教師呼べませんからね。

なのに妹ときたら4歳になって、あれが欲しいこれが欲しいなどとわがままを言います。
私?まぁ貧乏生活は前世で経験済ですからね!
せめてもの足しに、と山菜やらを取ってきてます。
領地が無くて王都住まいですが、城壁を越えれば野草や薬草はたっぷりあります。

そんなんで約一名違うものの、兄と姉、そして両親と共に必死に今を生きていた。
そう、過去形。

色々整理していて気付いたのは、先々代がまた良い方で、謝礼として三つ程、高い地位にあられる貴族の方の領地内に一部の土地を頂いていました。
はい、三つ。
で。

「…お前達は賢い!なのでそれぞれ新たに分家当主として爵位を拝命し、そこを任せる!土地の事はそこの領主たる公爵様達に伺え!父さん達は一時離れ借金を返す算段を付ける!頑張れ!…ってなんじゃこりゃ!!!」
「まぁ、そうなるな…伯爵から先代、君達にとっては先々代の当主の決め事を持ち込まれた時は何事かと思ったが…」
「俺とミシィはもう14と13だから良いけど!!」
「良く無いです…」
「良いけど!!レティはまだ6歳ですよ!?」
「「「…」」」

うがーーーっとお兄様が頭を掻きむしっておられるのを横目に、その土地の旨を書き記した書類に目を通す。
一つ、海に面した土地。
一つ、山に面した土地。
一つ、川を有する土地。
どれも広大な土地で、権利書が我が家にある為公爵様達は特に何もしていなかった土地。
お一人は宰相のグロウデス・フォンディ様。
お一人は騎士団団長のランディ・クロフォード様。
お一人は魔術師団長のギルデロイ・ランバート様。
分家当主とは驚きですが、陛下はわたくし達に何かを期待しておられるのか?

「お兄様。こうなっては仕方ありませんから、力を合わせて何かしましょう。」
「何かって、何!?俺達普通の貴族教養も受けてないんだぞ!?」
「んー…貴族教養を受けていなくても、生活の為に何かをするというのは労働の基本では。」
「…お、おう…」
「…んー…海に面しているなら、交易…はちょっと難しいか。海の幸やら養殖が出来ますね。」
「は。」
「ほう…」
「山ならその気候にあった作物、川なら穏やかですからなんでも出来そうですよねー。」
「とはいえ、お兄様はいざ知らず…わたくし達もよ?」
「うーーーん…そうだ!」
「「?」」
「クジでまずは自分の土地を決めましょう!じゃないと指針も生まれません!」
「ええ…」
「レティ…」

さっさと作ってー。
こうして引っ張ってあげないとお兄様もお姉様も動けませんしー。

「お姉様なら、どこかの嫡男でない方をお迎えして、その方とやるっていう手も無きにしも非ず。」
「そうだけど…うちみたいな斜陽でお金も何もない土地だけの娘に来てくれる方はいないと思うのだけど…」
「なら自分で頑張るしかないですね。」
「バッサリいくな…」
「はい!とりあえず読み書きと計算は出来るんですから、やってみないと。ですよね?」
「確かにな。(面白い…この状況でこの一番下の娘だけが冷静だ)」
「…それに。領地内の事ですから、一人や二人はお付下さるのでは?」
「ほう、そう来るかね。」
「わたくし達の成果はひいては公爵様方の成果ですし。」
「違いない。ふむ、3人共に魔力量は多いな。」
「まぁ…一応古い家柄ですし…俺来年の騎士試験の予約出来た所なのに!!!」

そういえば騎士試験の予選受かってましたね。
騎士となるには予選と呼ばれる大会で優勝か準優勝すると本戦…本試験に挑めるトーナメント方式なのです。
本試験では筆記もあります。
礼節面や法律関係もありますから、お父様の法律関係の書類ぶちまけて鍛錬の合間に勉強されてました。
お父様あれで一応司法の方の役職持ちだったんですよね。
あれで。

「ふむ…ならばロックス。私の土地に来い。土地持ちで騎士となるのも手だ。そういう者がいないわけでもない。」
「っ!!…川…ですか…」
「川だがな。」

なら川は除外して…

「ふむ?そう言えばお姉様もいつしか魔術を使っておられましたね?」
「うん。レティがやってた魔力鍛錬をやってみたの。そしたら魔法が上手く使えたし……何よりお腹の持ちが良いもの。」
「うむ。あれは凄い。」

あー、魔力を貯めとけばエネルギーがあるから少ない食事でも大丈夫そうだって気付いてやってましたねー。

「何!?…それが本当であるならこれは大発見だな。」
「そうだな。どうするのだ?」
「んっと、流れ出る魔力を留めて、体内で練って凝縮して、食べ物やそこらにある魔力を少しづつ吸収していけば。これで三日は食べなくても大丈夫。」
「「うん。」」
「…そこまでの経営難の前に相談して欲しかったものだがね。…ふむ、三人には初級魔術書を渡してあげよう。」
「「「っ!!」」」
「我等も鬼ではない。幼子…そして成人前とはいえ、子供を何もない土地に無碍に放り出す事はしないさ。」
「ああ。伯爵家の借金は現当主のものでは無いからね。」

貴族に限り借金は受け継がれてしまいます。
お金稼げる貴族ですから。
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