アイドル

□SolidSの妹
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昔から。
何をしても充実感など得られる事は無かった。

そう、あの日。
あの時に、あそこに行かなかったら。

私は今でも無意味に過ごしていたかもしれない。


それは春。
春うららかな日。

「はぁーい、リッズの皆ー。今日は握手会に来てくれてありがとねー!」

この日、アイドルのSolidSの握手会があった。
並んで。
握手とサインを許されてたこのイベント。
勿論、私は行った。

「あ、あのっ…その、昔からファンでっ」
「あはっありがとう!」
「サインお願いしても大丈夫ですか?」
「うん。…ってまた懐かしい写真だねぇ…」
「す、すいません…里津花さんのファンになったきっかけのブロマイドだったから…」
「ううん。ずっと持っててくれてありがとう。嬉しいよ。」

ああっ幸せだ!!

「リッズ君も揃えてくれたんだ?」
「はいっ昨日漸くっ頑張ってください!」
「うん!ありがとう!」

これが始まりの始まり。
普段ニュートラル過ぎる自分のギアをオンにして、行った握手会。
が、まさかの展開になるとは思いもしなかった。

握手会も終わって、しばらく辺りを
ブラブラする。
どうせ家には誰もいないし、いても一緒だし。

『国を変えるのは政治なんです!ですから…』
「…国の前にやる事あるでしょ…」

街頭モニターに映される政治家を睨みつつ。
過ぎ行く人々を何となく見送る。
昔は好きだった新体操。
昔は好きだった家。
昔は大好きだった…

「今は何の感情も湧かない…のは私壊れてるのかな…」

唯一胸が踊ったのは里津花さん。
モデルから、アイドルになったけど、それでも私を唯一熱くさせる人…というかもの。
私はこのまま無意味に生きて行くのかな。
ぼうっとしてたら。
声を掛けられた。

「?」
「あはっやっぱり。さっき握手会来てくれた子。」
「なになにー?里津花ナンパ?」
「ナンパは辞めとけよ翼。」
「俺に向かって言うなよ…今声掛けたの里津花じゃん…」

SolidS!?

「こんな街中でぼうっとしてたらナンパされちゃうよ?」
「いや、今アンタがしてる。」
「ええ?」

ナンパ…

「された事は無いですが…そうですね、こんな所でぼうっとしてたら通行の邪魔ですよね。」
「まぁそうでなくても暗くなってきたから
なー。早くお家帰りなよ?」

家…

「いえ…晩ご飯食べるか買い出しに行くか決めないと…」
「ん?」
「…?」
「…今日は家政婦さん来ないし…」
「「家政婦…?」」
「声掛けてくれてありがとうございました。」

どうしようかな。
と、振り返ろうとしたら。
手を引かれた。

「「「里津花!?」」」
「えーと。うん、これも記念って事で!」
「「「「は?」」」」

で。
私は里津花さんに拉致されました。
なんですと!?
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