アイドル

□ツキウタ。
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「水華!何度言えば分かるの!あなたのポジションはセンターじゃないのよ!?」
「…すみません。」
「もう良いわ。あなたは終わりよ、帰りなさい。はいっ他の子達は続けましょう!」

一礼してスタジオを出る。
センターじゃないって渡されたダンスプログラム踊っただけなのに。

「…歌も、ダンスも、言われた通りにやってなんで怒られるの…はあ…」

私、霧澤水華。
17歳。
幼い頃から芸能事務所所属して、それなりには芸歴は長い。
だけど。
昔から優遇された事はない。
今のグループも、とりあえずな感じで入れられて。
私はもっと歌いたい。
もっともっと踊りたい。
アイドルデビューしても、「社長のお気に入り」のサブ。
私ならもっと歌える。
私ならもっと踊れる。
どんな子と組んでもそれが出てしまうのか、事務所の人には嫌われている。
ふと見つけたのはSix Gravity、SolidSのポスター。

ツキノプロは大手で、両親が入れたがった所。
でもそんなお金ないとかで二流事務所。
ツキノプロだったら少し変わってたかなぁ…

「SolidS…かっこよかったなぁ…」

リーダーの
篁志季さんの曲は大好きだ。
他のアイドルのCDは聞いちゃだめだと言われるからテレビで偶然聞ける位しか聴いてない。
だけど、Six GravityとSolidSは好きだ。

「ふんふーん…」

鼻歌なんて歌ったら怒られるな。

「…君。」
「はい?」
「いい声だね。どこかの事務所に所属してるの?」

スーツの男の人に話しかけられた。

「は、はい…猿間芸能事務所所属の…………」

あの分だと私また降ろされるな…

「…あの。」
「ん?」

何故か不思議とこの人に聞いてしまっていた。

「アイドル…ううん…歌って踊るのに自分が一番だと思う事は駄目なんですか?」
「…なぜ?」
「私は…ずっと自分が一番になる。なりたくて、歌もダンスも練習してきました。アイドルという世界で勝負する為に。…なのに、社長のお気に入りをただ売れさせる為の脇役で満足したくないって…そう思う事は駄目なんでしょうか…」
「…君はお気に入りじゃない?」
「というか…野心が強すぎなんだと思います…最近じゃ…」

悲しい。
事務所に味方がいない。
家族も敵だ。
そう、思わざるを得ない今の状
況も、自分が輝ける歌を歌えないのも、嫌だ。

「…ちょっと、これ。歌って見てくれるかい?」
「は?はあ…」

見せてもらった楽譜。
音楽関係の人なのかな?
っていうかこの曲凄い!
熱くって、それでいて…

気づけば思うままに歌ってて。
周りに人がたくさんいた。
びっくりした…
でも気持ちよく歌えたのは初めてだ!

「ふふっありがとう。これを歌える女の子は君が初めてだ。…」
「いえ。これでもアイドルの端くれです…デビュー出来てないですけど…」
「君ほどの子が?」
「私は、社長に嫌われてるみたいです…すみません、もう行きますね。」
「ああ、引き止めて悪かったね。」
「いえ。」

なかなか変な人だったな…
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