□転生令嬢
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あっという間に月日は途中経過報告日になった。
付き人は勿論ローウェンよ。

「皆の頑張りには目を見張るものがあるわ。」
「今ではお嬢様に忠誠を誓う者ばかり。やはり風聞より現物ですよ。」
「そうね。」

様々な課題の報告がなされている。
わたくしの前に侯爵だ。

「陛下!ご覧下さい!もうこんなにも収穫出来ております!」
「ほう。流石穀倉地帯の領主だな。果樹にも強かったか。」
「いえいえ、ザンジーは我が領地の風土が良いのでしょう!」

たった一籠、しかも小盛ねぇ。
こっちを見てニヤニヤ笑ってるけど。

「…ふむ…些か以前食べたものより甘みが少ない気がするが…」
「そ、そうですか?ですが隣国とは気候が違いまする。そういう事でも作物に違いが出るものでございますよ…」

必死ねぇ。

「では、次。レティシア嬢。」
「はい。ローウェン。」
「はい。今朝方採れたばかりのものでございます。」

ローウェンも空間魔術の使い手。
まぁ属性で持ってるわたくしより容量が少ないらしいけど。

「んなぁ!?」
「な、なんだあの量…」
「ほう。」
「こちら、陛下からお預かり致しました苗木全ての収穫量です。」
「大籠…」
「しかも…一体幾つあるのだ?」
「そして、雇いました民達のお陰で育成状況が大変よろしく…わたくし暇になってしまいましたので。ローウェン。」
「はい。こちら、お嬢様が品種改良をなさり、育ちましたものにございます。」
「なに!?」
「オレンジ…」
「見ろ黄色でもまた違うものだぞ…」
「それも大籠とは…」
「ほう………っ!?甘みが強い!砂糖のようではないか!以前隣国から寄せたものより甘い!オレンジの物も更に甘いが、ただ甘いだけではない。どちらもまた違った風味だな!」
「優秀な民達のお陰で株が増えております。更に。」
「ん?」

ザンジー、めちゃくちゃ優秀なのよね。

「木の根から葉に至るまで、素晴らしい薬効が見つかりました。長年、城の薬師達も研究なされていたかと思いますが、レハン病の薬がこれで完成致しました事のご報告も兼ねてさせて頂きます。」
「なに!?」
「こちら、王立医術院に入院する患者へすぐにでも届けてください。雇い入れた民達の中にも家族がレハン病に犯された者がおりました。」

レハン病とは。
手足が動かなくなり、皮膚に緑の斑点が出来る不死の病だ。
連れてきた彼らの家族の実に半数以上がこの病を患っていた。
原因はジグルク草という毒草の花粉によって起こる重度のアレルギー。
だけどアレは見つかりずらい毒草で根絶が難しいのだ。
そこまでは判明している。

「雇い入れた者達は皆ザンジー育成の場の近くに住まわせていたのですが…日が経つ事に斑点が薄くなっているのに気付き、そちらの研究と併せて行いました。薬が完成し、飲ませた所。全ての患者に症状の軽減が見られました。」
「ほう!…試してみよ。」
「はっ!」
「まさかザンジー育成だけでなく薬まで作るとは。」
「ただいまはどれだけの病に効くかの調査と研究をしております。育成の場、とした所を早く陛下にお見せしたいものですわ。…ねぇ、侯爵様?」
「っ!!!」

仕事だけでなく病まで見たのだ。
侯爵の手の者が寝返るのは簡単な事だった。

「こちらは全て城へ献上いたしますわ。」
「うむ。」

さて、用はこれで終わりね。
さっさと引き上げましょ。

「…レティシア様。」
「…、何か?」
「陛下が個別にお呼びです。」
「かしこまりました。」

これは逃げれないわね。
向かうと陛下やら重鎮の方々。
騎士の人もいるわね。
執務室なのに結構厳重ね。

「良く来てくれたレティシア嬢。」
「いえ。」
「実は隣国の件で些か困った事になってな。」

え?

「実はな。隣国の特殊な作物など実に五種類…うちの一つザンジーはまだ唯一そなたが成功させてはいるが、早くも脱落した者がいてな。」
「は、はぁ…」

で、何故それをわたくしに?

「うむ。侯爵はザンジーだけでも手一杯のようなのでな。レティシアよ、残りの四種。見事育ててみせよ。それはここにいる重鎮達も頷いておる。」

見ると何人かわたくしを侍医として召してくれた方もいる。
まぁ、出来なくはない。
ザンジーと共に調べてはいたからね。

「…、かしこまりました。」
「うむ。」

渡された四種。
緑の濃い苦味があるも妊婦に人気だったという葉物野菜。
しかも名前はラプンツェルね。
細長い茎の上にポンと乗った大きな白い綿のような野菜、ムーモ。
丸くて大きいオレンジ色のカボチャに似た…というか全く同じのカンツェ。
そして…

「…」

探し回っていたライス!!
ラプンツェルは育成に土壌のマナ…つまり魔力が高くないと枯れてしまう。
ムーモはそもそも雪の中でしか育たない。
カンツェも魔力が高くないと大きくならない。
大きさはダントツで家くらいある。
ライスは言わずもがな田んぼでしか育たない。
良く畑でライスを作れたわね…

とりあえず更なる人員強化が必要か皆と相談ね。

早速帰って。

「お帰りなさいまし。」
「ただいま。皆に朗報…と呼べるかしら…」
「?」

作業員の纏め役のリッツが不思議そうに見てくる。

「この度、ザンジーの育成が成功しているとして…更なる課題が増えたの。育成の場は幾らでも作れるのだけど一気に四種…一人では厳しいのよ…」
「ふむ…ザンジーは落ち着いてきていますから少人数でも大丈夫です。家族達もレティシア様のお陰で元気になってきましたので。」
「あら、そう?なら…そうね、ムーモは寒い環境を再現し維持しなくてはいけないわ。」
「分かりました。」

ああ、それと。

「わたくしの教えた魔力鍛錬。必ず行ってちょうだい。特にラプンツェルは与える魔力が減ると途端に枯れる程魔力を必要とするから。」
「かしこまりました。」
「カンツェもムーモそうね。大きい程魔力が籠る魔力保有野菜…我が国は魔力回復に良い作物が少なかったけれど、これで手軽に手に入る事になるわ。」
「お味はどうなのでしょう?」
「ムーモはまったりとしたミルクのような味わいと聞くわ。カンツェは甘くホクホクだそうよ。…ラプンツェルは…」
「はい。」
「苦いらしいわ。ホーレンよりも苦味を感じるらしいけれど、そもそも隣国では妊婦が率先して摂る程の栄養価よ。」
「ほう…」

ライスに関しては。

「主食、ね。こちらは広く分布する穀物だけど栽培が難しいらしく主に貴族の主食だったそう。」
「…レティシア様は解決出来ると?」
「そもそも見つかった経緯を見れば簡単よ。」

沢の畔で見つかったのに何故畑で育てようとするのかしらね。
馬鹿じゃない?
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