多重能力

□一
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歓声ざわめく闘技場。
リングに上がるは様々な種族の戦士達。
しかしその表情は戦う喜びよりも、苦渋に満ちている。
今一人、獣人の戦士が倒れる。
立ち上がろうとする戦士の視線の先には檻に囚われた同じ獣人の女。
その者もまた涙を流し悲しみに満ちた表情を浮かべている。

ここはサルバレーシア。
闘技場がそのまま一つの国であり、またその「参加者」はまた別の国の…捕らえられた「景品」を取り戻す為に争う。

その闘技場に一人の姿。
闘技場を見上げるもマントとフードで顔は見えないものの、マントから覗くその体は少女の様だ。

「おい、お嬢ちゃん。ここに用か?」
「やめとけやめとけ。ここは女子供の来る場所じゃあねえよ。」
「…どうして?」
「そりゃおめぇ…ここは苦しみと狂楽のサルバレーシアだ。」
「哀れな人質とそれを取り戻したい戦士の墓場さ。終わりのねぇ、な。」
「ふぅん。」
「そういやさっき新しい人質が連れて来られたな。しょぼくれた爺さんだったけど。」
「…」
「そういやそうだな。それに確か国丸ごと人質の奴もいたよな。」
「あぁ、いたな。水晶の刀の男だよな。」

しばらく男達の話を聞いていた少女は再び闘技場に足を向ける。


おい?話聞いてたか?」
「聞いてた。だから行くの。」
「オイオイまさか嬢ちゃんが出場するなんてこたぁ…」
「そうよ。…はぁ、消えたと思えば何してんだか。」
「「???」」
「多分、その爺さんってのは私の探してるジジイだから。」
「だからってよ!やめとけ!」
「そうだぜ!」

少女を留めるかのような男達。
だが、少女は男達をチラリと見、そして言い放つ。

「負けた、から燻るのは分かるけど。武器を持たぬ戦士に止める権限はない。」

フードからチラリと見えたその瞳は熾烈な光りを称えていた。
その眼光に男達は口を閉ざす。
少なからず恐怖も覚えたからだ。

「…これ、あげる。」

萎縮する男達の人数分、マントの内から武器が出てくる。
だがその刃は金属ではなく、金属よりも脆い筈の宝石。

「すぐに私も出場しない。一週間でこれを使いこなせられるなら、グループで出よう。」

そう言って少女は何処かへと去っていった。
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