IS〜銀の軌跡
□episode 5
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「なに、これ・・・?」
一夏の特訓のため、放課後に第三アリーナへやってきたライの第一声がこれだった
地面に大の字になって寝そべる一夏。しかもその周辺の地面がボロボロになっていたのだ
授業終了後、特訓のためアリーナに向かおうとしたライだったが、そんなライの前に立ち塞がる人物が
チェスで打倒ライを誓う千冬である。あまりのしつこさに根負けしたライは、千冬との勝負を引き受けたのだ
一夏をほったらかしにしてくわけにもいかないので、千冬との対局が終わるまでの間、箒とセシリアに一夏のコーチを頼むことに
無論、チェスの対局はライの全勝。しぶとく勝負を持ちかけてくる千冬に、一夏の特訓を引き受けたことを告げる
ライの目論見通り、そういうことならばと、千冬は解放してくれたのだ。厳しくあたってはいるがやはり弟のことを心配しているし、大切なんだろうと理解できる
ライがチェスをしている間、一夏のコーチを任された箒とセシリア。箒が訓練機の『打鉄』を用いて特訓を開始しようとしたのだが
専用機持ちであり、代表候補生である自分の方が適任であり、ライから一夏のことを任されたのは自分だと言い出したセシリアと、言い争いの末、一夏を巻き込んだバトルに発展
「それで、こうなったと」
「「はい・・・」」
ISを装着した状態で正座させられている箒とセシリア。二人は俯いたままの状態で、その表情は若干沈んでいる
正座をさせた張本人であるライは二人の前に立ち溜め息をつく。その様子を見た一夏は、ライを怒らせないようにしようと心に誓うのだった
「今日はもう遅い、一夏もボロボロだし特訓はここまでにしよう。ただし、今後もこういった事態にならないように、今後の方針と役割分担だけは今ここで決めておくよ」
「方針?」
「「役割分担?」」
三人が疑問の声をあげる
「そう、効率よくかつ効果的に成果をだせるようにね。まずは一夏、君の白式についておさらいしてみようか」
ライに促され、コアネットワークを起動させて、白式の詳細なデータとスペックを表示する
「見ての通りだけど、白式自体のスペックはかなり高い。はっきり言うと第三世代機であるセシリアのブルー・ティアーズよりも上だ」
言い終わるとセシリアにごめんねと謝るライ
「いえ、お気になさらないでください。確かに、前回の試合で白式のスペックの高さを身を持って経験しましたわ」
試合自体はセシリアが勝ったが、それも勝ちといえるか微妙な物
「そして白式の最大の武器。それがこの『零落白夜』対象のエネルギーをすべてを消滅させられるうえに、相手のエネルギー兵器による攻撃を無効化したり、シールドバリアーを切り裂いて相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる白式最大の攻撃能力。
ただし、自分のシールドエネルギーを消費して発動させるために、使いどころが難しい。けれど、使いこなせれば非常に強力な武器になる。ここまでは織斑先生も言ってたよね」
一夏と箒が頷く
「一夏が強くなるためには、零落白夜を使いこなし、確実に決められるようになること。
その為に明日から、近接格闘戦の間合いの取り方と、射撃武器の回避に主眼を置いた訓練を始める。相手の射撃をかいくぐり、白式の機動力で一気に接近して必殺の一撃を叩き込み勝負を決める。
ワンアタック・ワンキルを目標にね」
「な、なるほど!」
「さすがライさんですわ!」
自分たちがまったく思いつかなかった戦術を提案したライに、三人は感嘆の声をあげる
「そこで、箒とセシリアにも協力してもらいたい。僕が一人で教えるよりはるかに効率的だと思うしね」
「わかりましたわ」
「それで、何をすればいい?」
「まずは箒が近接格闘戦を担当。無論いつも訓練機を借りることはできないから。訓練機を借りられないときは代わりに僕が担当する。
セシリアは射撃回避の担当。どちらも実戦方式で訓練するから。
そして、訓練の仕上がり具合を、僕が模擬戦で確認する」
「了解した。明日から早速頼むぜ」
一夏が視線を箒とセシリアに向けると、任せろと言わんばかりに二人は頷いたのだった
◇
時刻は八時過ぎ。夕食を終えて皆がくつろいでいる時間帯
自室に戻ろうと、寮の廊下を歩いていたライの耳に
パァンッ
清々しいほどまでの打撃音が響いてきた
音の発生源に視線を向けると、一夏の部屋の前にボストンバッグを持った鈴が立っているが、なにやら様子がおかしい
肩を小刻みに震わせ、怒りに満ちた眼差しで、開いたドアの先を睨んでいる
「最っっっ低!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないやつ!犬に噛まれて死ね!」
乱暴に一夏の部屋のドアを閉めた
「・・・鈴?」
俯いたままこちらに向かってくる鈴に声をかけるライ
はっ、と驚いたように顔を上げる鈴
「な、何よ?」
「泣いているのか」
鈴の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、涙をこぼさぬよう唇を噛み締めていた
「ば、ばっかじゃないの!なんで私が泣かなきゃならないのよ!」
視線をそらし、横を向きながら言う鈴。泣いている姿をみられたくないからだろう
「ッ!!」
不意に、鈴のその姿が、誰かの姿と重なって見えた
そう、忘れるはずがない。ライにとって何よりも、誰よりも愛おしく大切だった少女
ライの実の妹だ。ライとライの妹は腹違いの兄弟たちから疎まれ、蔑まれ、迫害を受けていた
ライの前で涙を見せぬよう、ライに余計な心配をかけぬよう気丈に振舞っていたその姿と鈴の今の表情が重なって見えた
気が付けば、走り去ろうとする鈴の腕を、無意識のうちに掴んでいた