宝物
□この小さな世界の隅で
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『この小さな世界の隅で』
某月某日、京にてーーー
高杉は隠れ家である屋敷の縁側で庭を眺めていた。
穏やかな日差しとふわりと吹く風が気持ちいい。
そろそろ眠くなってきた…
高杉が瞼を閉じたその時ーーー
ゴンッ!
ドシャッ…
何かの音が聞こえた。
またか。
高杉は小さくため息をついてゆっくり立ち上がると音の発生源へと歩を進めた。
「……毎度毎度なにしてやがんだ、銀時。」
高杉の目の前には木製の皿。周辺に散らばった栗饅頭。そして、それらを取ろうとしてバランスを崩したであろう白い着流しを身につけ、その髪と同じ色の、銀色の耳と尻尾を生やした少年ーーー銀時が尻もちをついていた。
「いやぁ、甘い匂いがするからさ〜…取ろうとしてジャンプしたら取れたはいいけど着地に失敗しましたみてーな?」
銀時の頭には転んだ拍子に出来たであろう大きなたんこぶがあった。
「菓子が食いてェなら万斉か武市にでも取ってもらえばいいだろうが」
「そう思ったけどいねーんだよね、あのグラサン。武市は生理的に無理だし」
サラリと酷いことを言う銀時。
「じゃあ帰ってくるまで待ってりゃいいだろうが」
やはり痛いのか、たんこぶをさすりながら、
「いつ帰ってくるかもわかんねぇのにんなことするかよ。
それに、晋助があんな高いとこに置くからだろ!?テーブルの上に置いとくとかしとけよ!」
「あぁ?テメェが糖尿にならねェようにわざとあそこに置いたんd「え?晋助あそこ届くの?踏み台なしで?えーすごーい晋ちゃん尊敬するー」…」
その言葉に額に青筋を浮かべる高杉。
「俺ァ少なくともテメーよりは高いぞ」
「たった3cm違うだけでんな偉そうにできんのかよ。」
元来決して気が長くない高杉にしてはよく持ちこたえた方だろう。
次の瞬間、高杉は銀時に馬乗りになった。
「うおっ!?なにしやがんだ!!」
「ご主人様に生意気な口聞くもんだからよォ…躾してやろうと思ってなァ」
サッと銀時の顔が青ざめた。
「し、晋助く〜ん?落ち着こう?ねぇ?顔怖いよ〜」
片方の耳を伏せ、首を傾げて高杉のご機嫌を取ろうとする銀時だが
「黙れ。」
一蹴。
高杉は銀時の身体に手を伸ばしーーー
「ひゃはっ!?たかしゅぎやめ!!うひゃひゃぉう!!ひぃ」
銀時の脇腹をくすぐりはじめた。
「くしゅぐったっ…いっ…うひゃひゃひゃ!!やめっ…」
「あ?ここがいいのか?」
高杉の手は止まらない
「ひょぉぉぉう!?やめっ…ふはっ…!!やめろ、ひゃん!」
顔を赤くしながら涙目で静止を訴える銀時。
「エロいな、お前…やめてほしかったらそれなりの頼み方があんだろォが」
銀時の猫耳に向かって低い声で囁く。
それに合わせて耳がピクピクと痙動く。
「ひゃおん!!やめぇ、ごめんなさ、ひゃうっ!?」
「…ふん」
若干物足りなさそうな表情の高杉だったが、漸くやめると銀時の上から降り、尻尾を指に巻きつけて戯れ始めた。
「チクショー相変わらず性格悪ィよ〜」
高杉の方をじっと見ながら尻尾を左右に動かす。
「はん、褒め言葉ありがとよ」
「褒めてねーよ」
「…クククッ」
頬を膨らませている銀時の柔らかな銀髪を優しくなでながら笑う高杉の表情は狂気を潜めた、どこまでも穏やかなものだった。
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