Asa Em Colapso:YooSic

□蛇行する翼
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―始まりは突然ではなく、ただゆっくりと翼は風切り羽を亡くしていき私は空から落下していった。
眼下に見える鉛のような深い青色の波立つ海へと。
波は白い飛沫をあげながら轟々と不吉な音を鳴らし、飲み込むのを待っているかのように上下左右にうねりながら待っていた。


身体には厭な汗をかき、小刻みに震える手を握り締め暗闇に目が慣れるのを待った。
ベットから上体を起こし、浅く速い息をしながらも背中や臍にむかい汗が伝う。
パジャマ替わりのTシャツは張り付き、下半身のスウェットも嫌な感じに纏わりつく。

暗闇に慣れてきた頃、目に両手を近付けて眺める。
小刻みに震える手と、右手にだけ感じる痺れが恐怖を助長し勢いよく流れ始めた血液との反動で軽い眩暈さえ感じる。

言葉を発してみたが、それはもはや言葉などではなく乾いた呼吸でしかなかった。
喉に何かが張り付いているかの様な渇きを感じた。
枕元の携帯電話を取ろうと手を伸ばした身体は呆気なくバランスを崩し、伸ばしていた手に携帯は跳ね飛ばされ鈍い音を響かせて落ちた。
ぶつけた手の痛みに思わず顔が歪み、瞬間息を止めた。
一体何だと言うのだ。何故、こんなに自分の身体が理不尽な動きをしなければいけないのか。
少し開けておいた窓から、夜の静かすぎる雑音が聞こえハラハラとカーテンが控え目に揺れる。
その度に僅かな光がカーペットに差し込んでは消え、差し込んでは消えを繰り返している。

私の携帯電話がディスプレイから不自然なくらいの眩しい光を液晶から放ちながら、バイブの振動音と共に小さく動いている。

「助けて…………」

やっとの思いで絞り出した声は小さく掠れ震えていた。
誰の耳にも入ることなく使命を終えてまた静かすぎる夜の雑音だけが部屋を支配する。

床の上の携帯電話は不在着信を告げる点滅を続けている。
一つ目の羽根はその夜に静かに乱暴に彼女の背中から引き千切られた。
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