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□愛は咲く
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家に帰る途中、美栞と会わないよう目立たない路地裏を進んでいく。


「あいつ、面倒なこと聞いてくるからな…」


"ねえ、女ってなに?"

それは答えてはならない、知っていてはならない。


「オレが知ってるのも、偶然だしな…」


少し前、練習場所をうろついていると本が落ちているのが目に入った。

ボロボロで中の文字もかすれて読めなかったが、そこは魔法使いの特権で直した。

家に持ち帰って読んでいると、それはどうやら読んではいけないものらしかった。


「女。…この国にだけいない、性」


その本を読むまでは、世界には男しかいないと思っていた。

しかし――その本には記されていた。

女のこと、世界のこと、この国のこと。


「この国は争いを恐れ、他国との干渉を避ける」


昔、大きな争いがあったらしい。

そのときには女はこの国にいた。

国は戦に敗れ、女は半分殺され、もう半分は他国に奴隷として連れていかれた。


「男を殺さなかったのは、子供ができないから、この国はもう滅びたも同然だったから…」


けれど、当時この国は魔法が非常に発達していた。

魔法使いたちは力を合わせ、永遠に続く魔法を残した。


「男しかいなくても、子どもが生まれるように…桜の丘に…」


その魔法で魔力を使い果たし、魔法使いの数は激減した。

けれどそのおかげで、男たちはなんとか子孫を残すことができた。


「女を生まれさせないのは…」


争いのトラウマ、と書いてあった。

たぶん……また同じことが起きたときに、女を傷つけないためだろうか。


「このことを知ってはいけないのは、他国にこのことがバレないようにするためで…」


これだけ干渉しなければ、情報は漏れないとは思うが。

一番の理由は、戦で負けたという歴史と悲劇を封印するためだろう…。


「あーもう!難しい!!」


オレは頭を掻きながら角を曲がった。

後少しで、家に着ける。









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