01

□真夏の音が消えたなら
1ページ/1ページ




夏の暑さが色濃く残る
その中でだんだん秋の
色に染まっていく夏の
色をしていたはずの空。

ふと気付けばきっと夏の
終わる少し前に出てきた
であろう蝉の鳴く声すら
耳の片隅に残して蜻蛉が
飛ぶ姿を畳の上にごろり
と寝転びながらぼーっと
眺める。

「暇だなぁ…」

はぁ、と溜息をひとつ
ついてみてもそんなの
暇潰しにならないこと
くらい分かっているし
理解もしているだけど
暇なものは暇なままで
あって仕方がないのだ。

「こうなったらもう
いっそうのこと一人で
夏祭り行こうかなぁ…」

どうせあの彼のことだ。

わたしと夏祭り行く約束
してたことなんて忘れて
きっと今頃部活仲間の子
たちと夏祭り思いっきり
楽しんでいるんだそうに
違いない。

そんな彼には悪いけれど
勝手なことを一人悶々と
考えていたら何だか少し
寂しくなってきてほんの
少し着崩れた浴衣を直し
ここで待っている自分が
だんだん馬鹿らしいと、
思えてきて部屋に戻って
普通の服に着替えてから
夏祭りに行こうかと体を
起こした瞬間、ふわりと
誰かに後ろから抱きしめ
られああもうほんとうに
これくらいで誰かさえも
分かってしまうわたしは
相当彼に恋愛的な意味で
参ってしまっているんだ
なぁ…なんて思いながら
わたしを抱きしめている
彼のあたたかくも優しい
その腕そっと触れるかの
ように手を重ねて迎えに
くるのが遅いよばか…と
伝えればわたしをいつも
安心させてくれる心地の
良い声音でうんごめんな
と耳元で囁くものだから
わたしの中で強まっては
募っていた怒りも妬みも
柔らかく消えていった。


-真夏の音が消えたなら-


あなたのぬくもりは
こんなにも温かい…ー



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ