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□第六話
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「和樹……帰ってこないな。」
「そうだね……。」
取り残された、俺と奈々は廊下で窓の方の壁を背にして座り込んでいた。
「大丈夫かな?」
「わからない……。和樹はまだあれと接触してないから……。」
「うん……。」
暫く沈黙が流れる。
何も話さないでいると、二人のこととあいつの声がぐるぐる頭の中を回って、自分でも何が何だか分からなくなってくる。
二人は無事なのか。
いったいこの状況は何なんだ。
いったいあいつは何者なんだ。
答えの出ない問いが何度も何度も行き来する。
「ねぇ、颯太。」
「な、何だ?」
思考の中にいきなり入ってきた声に一瞬驚く。
横を見ると奈々がどこを見ているでもない目を床に向けている。
「颯太は見てはいないんだよね?」
「あ、あぁ。声を聞いただけだ。」
「そっか……。」
その後、言葉が続くでもなく奈々は押し黙ってしまう。
理由を聞いても答えようとしなかった。
ただ、
「少し考えさせて。」
と言っただけでこの会話は終わった。
それから、何分とも何時間とも今となってはわからないが、長い時間、じっとこうしていたと思う。
やはりいくら待とうと夜は明けない
助けも来ない
二人も帰ってくることはない
和樹……碧……
言葉に表せられない感情が重くのしかかる
「颯太……」
その時、長い長考に入っていた奈々が再び口を開いた。
「何だ?」
「覚えてる?二年前の事件?」
奈々は表情一つ変えることなく、淡々と話す。
「事故って言った方がいいのかな……。」
「なんのことだ?」
奈々が何を言っているのかわからなかった。
だけど、その言葉を聞いた瞬間自分の中で何かがひっかかっているような感覚に襲われた。
「人間って案外忘れちゃうものだね。もしかしたら忘れたかっただけかもしれないけど。私もついさっきまで颯太と同じようにすっかり忘れちゃってた。」
俺は黙って奈々の言葉を聞いていた。
何かを忘れている
確かにそうかもしれない。
奈々はただ淡々と、でも震えた声で続きを語る。
「私たちって、中学2年の夏までは五人だったんだよ?」
「五人?」
「思い出せない?明紀ちゃんのことだよ。とっても感が鋭かった。」
明紀
その名前と共にいろんな記憶が頭の中をフラッシュバックする。
初めて出会った時のこと、夏休みでの海、夏祭り、秋の運動会、遠足、文化祭、学校での何気ない日常
中学二年の夏まで
そこには彼女が共にいた
「思い出した……明紀……」
「うん。二年前の中学二年の夏に亡くなっちゃった子。」
「そうだ……。」
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