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□第一話
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「おおッ!!いい雰囲気じゃん?」
「さすが期待を裏切らないスケールだね。」
「ちょっと、やばいって。やめようよ。」
「確かになんかやばそうな雰囲気はするな。」
「大丈夫だよ。ちょっと行って帰るだけだし。」

きっかけは些細なものであった。
俺たち四人は中学からの付き合いで、高校に上がってからもそれなりによく会っていた。
高校一年生の夏
その響きが与える影響は大きなもので、ちょっとした冒険に行こう、そんなことを思わせるには十分なものであった。
誰が言い出したのかは、今となってわからない。
「肝試しに行こう。」
その言葉に俺たちの過半数の人間が賛同してしまった。
すっかり盛り上がった俺たちは中学校で肝試しをやろうということになり、すぐさま数か月前まで俺たちが毎日のように過ごした中学校へと向かった。
あたりはすでに暗くなっており、月明かりと街頭だけがぼんやり周囲を照らしていた。
「おい、知ってるか?」
「何がだ?」
学校に向かうまでの道、意味深なにやけ顔を浮かべながら話し出す。
「学校さ、来年には廃校じゃん。」
「それぐらい知ってるよ。生徒数が少なすぎるんだろ?」
「解体工事も始まるんだってね。」
そんなことはここにいる誰もが知っていることだった。
田舎町のここでは少なくはない話だ。
中学生の時もどこどこの学校が廃校になるとか合併するという話は時折耳にした。
なんとなく俺も、この学校も危ないよな、なんて思いながら中学校生活を送っていた。
そして中学三年の時、その話は校長の口自らから話された。
『この学校は二年後には廃校となります。』
この学校の卒業生は俺たちで最後らしく、俺たちの卒業後在校生はそれぞれ近くの学校に転入という形になるらしい。
その時は、胸に何かが重くのしかかったように感じた。皆も残りの学校生活を噛みしめる様にして過ごした。
卒業の時には、例年に勝るほどの涙の卒業式であった。
しかし、高校に上がり皆と離れて、新しい学校で高校生活を送るうちに、自然と俺たちの心は学校から離れていき、記憶もしだいに霞んでいった。
そんな時に、かつての仲間と共にかつての学校で肝試しをしよう、などとなったのだ。
だが、これはさっきも言ったようにここにいる皆が共有している事実である。
「あぁ、そうだろうな。」
「何だよ?和樹、勿体ぶらずに話せよ。」
尚もにやけ顔をやめずに話を切り出さないこいつに先を促す。
他の皆も話の続きを待っているようでじっと和樹の顔を見つめる。
すると、待ってましたと言わんばかりの顔で語りだす。
「あそこさ……出るんだってよ。」
「……は?」
意味が分からなかった。
というより主語がないのにわかれという方が不可能だ。
一斉に疑問符を投げかける俺たちに和樹は意気揚々と一人で語り出す。
「俺の高校でさ、俺たちと同じようにあの学校で肝試しをやろうとしたやつがいるんだよ。それで、帰ってきた奴らが言ったことは何だと思う?」
生唾を飲み込む、というのはこのことを言うのだろうか。
この先の話を聞かないほうがいい気がするのはわかっている。だが、ここまで聞いてぼんやりしたまま学校に行くわけにはいかない。誰も止めようはとしなかった。
少しの間を置き、ゆっくりと、深く、その言葉は俺たちの耳に響く。
「『女の幽霊を見た』ってな。」
数秒の間の後、聞こえてきたのは奈々の叫び声だった。
「いやッ!!やだッ、ていうか早く言ってよ!!ねぇ、もう帰ろ。行ったってろくなことないよ。」
「なら、奈々一人で帰ったら?俺たちはその真偽を確かめなきゃいけない。俺たちの通っていた学校だからな。」
和樹がしてやった顔で、奈々をちゃかす。
呆れてものも言えなかった。結局やはり、和樹のこういった話に惑わされるのはいつも奈々であった。
「和樹、あんま奈々をいじめてやるなよ。」
そこにフォローするのはいつも碧である。
「悪い、悪い。ちっと遊びが過ぎたな。」
全く悪びれるそぶりのない和樹を横目で奈々が睨む。
「たっく、ああいう冗談は時と場所を選んでやれよ。」
かつて見たいつもの光景に懐かしさを覚え俺もつい笑顔がこぼれる。
「悪かったって。まぁ、これで少し緊張も和らいだろ?なんかあった時は俺が守ってやるから!!」
「幽霊とどうやって戦う気なんだ。」
「そ、それは……気合いだよ!!」
「気合いで勝てたら幽霊は絶滅している。」
碧の冷静な突っ込みに和樹もたじろぐ。
四人で他愛もない会話をしているうちに、俺たちは目的地の学校へたどり着いた。
夏休み、しかもこの時間になると学校のどの教室も明かりなどついているはずもなく、真っ黒な中にそれは不自然に浮かび上がって見えた。
『女の幽霊を見た』
頭に一瞬よぎる。
そんなはずはない、と俺は脳内からそれを打ち消す。
「おおッ!!いい雰囲気じゃん?」
テンションが上がってきたのか和樹は声を張り上げる。
「さすが期待を裏切らないスケールだね。」
碧までもがそれに乗って答える。
「ちょっと、やばいって。やめようよ。」
奈々は必死になって俺の腕の袖を掴んでくる。
「確かになんかやばそうな雰囲気はするな。」
苦笑いを浮かべ学校を見つめる。
「大丈夫だよ。ちょっと行って帰るだけだし。」
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