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□マジック
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*成瀬
今、僕の目の前に広げられているのは、タロットカード……ではなく、トランプ。
「好きなの選べ。」
トランプを挟んで反対側にいるのは、口角を不敵に上げている熊田さん。
どうやら、僕の選んだカードを当てる……という、マジックを披露してくれるらしい。
綺麗に並べられたカードから、一枚を選び、指差す。
「んじゃ、俺に見えないように持って。」
そう言って、こちらに背を向ける彼。
その間に選んだカードを取り、描かれた絵柄を確認する。
ーーハートのキング。
「OK?」
熊田さんが、背を向けたまま声をかけてきた。
「はい……覚えました。」
「うし。じゃ、戻して」
すっ…と、適当な所に戻す。
「んじゃーきるぞ。驚けよ?」
並べられたカードたちをひとまとめにし、ニヤリと僕の顔を見る彼。
いかにも、いたずら好き……と言った感じだ。
「成瀬の引いたカードは〜……。……これだな?」
手慣れた動作で一枚のトランプを僕の前にかざす。
そこに描かれていたのは……
……ハートのキング。
「…はい。」
「なんだよ!反応薄いなテメェ。」
「……何故、わかったのですか?」
「さぁー?何でだろうな。くくく……当ててみろよ。」
「……。」
いくらありふれとはいえ、不思議だ。
カードの上下の大きさが違うためにわかる、というネタでは、矛盾が生じる。
ぼくは取ったままの向きで、トランプを戻したのだから。
では、何処かで見ていた?
辺りを見回すが、鏡や反射するであろう物は見当たらない。
ならば……。
……まさかとは思うけれど。
「そのトランプ、見せていただいても?」
「……おう。」
トランプの束を受け取りながらも……彼の表情と声音で分かった。
なんて大胆なトリックを……。
トランプの束の絵柄を見たら……。
全てハートのキングだった。
「……単純ですね……。」
「うっせぇ!面白かっただろ!」
…… ある日の、マジック。
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