レオクラ♂
□初恋
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それは、クラピカから突如投げかけられた、ある他愛もない質問から始まった。
初恋
うだるような暑さが印象的な、ある夜の事だった。
「レ、レオリオ、少し聞きたい事があるのだが…」
2人揃ってソファーに座り、夕食後のひと時を過ごしていた最中に、クラピカが突如思いも寄らない質問を投げかけてきたのだ。
「初恋が実らないというのは…、本当の事なのだろうか?」
しかも彼らしくない、やけに緊張したような声色で。
最初は冗談だとばかり思って、レオリオはからかい半分にクラピカの方を振り返ったのだが…、
真っ白な頬を赤らめたクラピカは、その口調同様に、表情も怖い位に真剣だった。
レオリオはしばらくのあいだポカンと口を開いて…、すぐに吹き出してしまった。
「っなんだそりゃ…」
「な、何も笑う事はないだろう!?」
かぁぁっ。
クラピカはすぐに眉をしかめて睨みつけてくる。
「あーー、わりぃわりぃ」
レオリオはひとしきり笑った後、クラピカの柔らかい髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜながらそう返した。
だが、時すでに遅し。
クラピカはすっかりヘソを曲げてしまっていて、その小さな唇をぷくっと尖らせてそっぽ向いていた。
「…っお前のようなふざけた男に聞いた私が悪かったのだ…」
なんてブツブツぼやいている。
「そう怒んなって。で、なんだっけ?初恋は実らねぇって?どこで聞いたんだ、そんな話」
クラピカはおずおず…と顔を上げて、彼にしては珍しく不安を隠せない表情で見つめてきた。
「……先ほど、テレビで女性が言っていたのを耳にしたのだ」
「テレビ?…あぁ、お前のお気に入りのあのドラマな」
クラピカはここ最近お気に入りのドラマができたらしく、開始五分前になると、テレビの前のソファーにちょこんと座ってソワソワしている姿を、レオリオは何度も目撃していた。
「べ、別に気に入っているわけではない。…ただ、一度見逃してしまったら次回見た時に彼らの間に何が起こったかわからなくなるだろう?」
(そういうのを気に入ったっつーんだよ)
あいもかわららず意地っ張りなクラピカに、レオリオは内心苦笑してしまう。
あまり突っ込むとヘソを曲げてしまうので、あくまで心の中で、だ。
「初恋は実らない、ねぇ。まぁ、よく聞く話だけどな」
そう返すと、クラピカはギクリと肩を揺らした。
「……やはり本当の事なのだろうか…」
そわそわ、と視線をさまよわせて聞いてくるその姿に、レオリオはニヤリと口元をつりあげた。
「…なんだよクラピカ。好きな奴でも出来たのか?」
「 !!」
かぁぁぁっっ。
白かった首筋や耳元が、一気に赤く染まった。
からかったつもりだったのだが、余りにも顕著なその反応に、レオリオは驚きで目を見開いてしまう。
てっきり好奇心か何かで尋ねてきたものだとばかり思っていたのだ。
「え、なんだよ。マジか?」
「…っ、馬鹿な。この私が恋などと…、そんな馬鹿げたものにうつつをぬかすように見えるのか?」
クラピカは慌てて平静を保とうとしたようだったが、その声が微かに震えている。
「だから、見えねぇからビビってんの。んで、誰なんだよ」
「え?」
「相手だよ、相手!お前みてーな捻くれ者が惚れるような相手って一体どんな奴なんだ?」
かぁぁ…
「だ、だから、誤解だと言っているだろう!」
「隠す事ねーだろ。教えろよ」
「しつこいぞっ!」
クラピカは真っ赤になったまま、慌てて背を向けた。
「んだよーー、そうやって隠されっと余計気になんだろーがぁー」
後ろから羽交い締めにしてやると、クラピカはその華奢な身体をねじってひねって、何とか逃れようともがく。
が、そこはやはりこの体格差だ。
クラピカがいくら暴れようと、レオリオはびくともしなかった。
「ほらほら、隠してねぇでおぢさんにおしえてみ〜??」
「っ死んでも嫌なのだ!」
ぱたぱた、と手足を動かして抵抗してくるが、レオリオはクラピカのあまりにもわかりやすい反応に、笑いを押し殺しながらもますます強く押さえ込んでしまう。
「死んでも嫌っつぅことは、やっぱし相手がいるから言えねぇってことなんだよな?」
「…っ、…貴様には関係のないことだろう…っっ!」
「んだよ、ケチケチすんなよ。俺ら同居人だろ〜?」
うりうりぃ〜とクラピカの肩をふざけるように小突くが、クラピカはまるで貝の様に身体を硬くして丸まってしまう。
死んでも嫌だと言う言葉を体現したかのような頑固さがよく現れている。
レオリオはなんとなく、クラピカのその頑なな態度に自身がイライラし始めていることに気がついていた。
(なんだ…?)
よくわからない。
何故こんなにも…、イライラするのだろう?
クラピカが一向に答えようとしないからだろうか?
(いや、こいつが頑固なのはいつも通りだけどよ…)
なぜか胸の奥がモヤモヤしてしまう。
「…っ、レオリオ、いつまで押さえ込んでいるつもりだ。もう十分だろう?」
「……」
無言のまま、のしかかっていた身体をどけてやると、クラピカが猫のような素早さでささっと身体を起こして体勢を整えた。
「…俺の知ってる奴か?」
「…え?」
「お前の好きな奴。俺の知ってる奴かって聞いてんだよ」
イライラを隠さないまま、レオリオは短くそう尋ねた。
クラピカの瞳がはっと見開かれ…、すぐに白かった目の端がさぁっと赤らんで行くのが分かった。
言葉は無くとも、その態度では肯定したも同然だ。
「誰だか教えろよ」
レオリオは先程ふざけていたときとは打って変わって、静かな声でそう尋ねた。
「……っ…だから、先程から君には関係のない事だと言っているだろう?」
クラピカがさっと目を逸らす。
その態度が気に食わず、レオリオはさらに苛立ちを募らせてしまう。
「なんで言えねぇんだよ。別に後ろめたい事でも何でもねぇだろ?」
「…くどいぞ、レオリオ。何度聞かれても答えるつもりはない」
話は終わりだ、とばかりにクラピカが立ち上がった。そのまま背中を向けて、そそくさとリビングを出て行こうとしたが。
「待てって!」
続いて立ち上がったレオリオが、伸ばした手でクラピカの手首を掴んだ。
そうしてから、その頼りないまでの細さに、小さく息を飲んでしまう。
(こんなに細かったっけか、こいつ…)
血管が透き通る程に透明感のある真っ白な肌に、少女のように華奢な身体つき。
近くによると顕著に感じる、花のような甘い香り…。
こんな時だというのに、改めて意識してしまう。
同性だとかそんな事は関係なく、クラピカは綺麗だ。
男には全く興味のない自分でもそう思うのだから、そのケのある人間から見たらさぞ魅力的に映るのだろう。
そんなクラピカが、恋をしたというのだ。
(誰に…?)
先ほどの彼の反応からして、自分の知っている人間が相手であろうことは明らかだった。
誰なのだろう。
女?それとも……男?
知りたい。
どうしても、知りたい。
「…なんだ?まだ何かあるのか?」
クラピカの声で、レオリオは我に帰った。
「…っと、…いや、だからよー、…俺相手にそんなにお固くする必要ねぇだろ?俺の知ってる奴だったら、協力してやれるかもしれねぇし」
「必要ない」
きっぱりと、迷いのない声でクラピカがそう言った。
「好きなんだろ?そいつのこと」
レオリオがそう尋ねると、クラピカは一瞬言葉に詰まった。
長い睫毛を伏せがちにして、ほんのりと目元を赤らめる。
桜の花びらのように可憐な唇は、微かに震えていた。
息を、のんでしまう。
それはレオリオが今までに目にした事のない、クラピカの姿だった。
(俺の知ってるクラピカはもっと…)
いつも凛としていて、迷いがなくて。
少女のような外見とは不釣合いなほどに、強い意思を秘めた瞳が印象的で…。
それなのに。
今自分の目の前にいるクラピカは、どこからどう見ても、可憐で儚げな、恋をする少年そのものだった。
こんなに長いあいだ、彼のすぐ側にいたというのに。
(そんな顔、…俺には見せたこと無かったじゃねぇかよ…)
まただ。
胸の奥が、チクリと痛む。
靄がかかったように、息苦しささえ感じてしまう。
「…関係ない」
しばらくののち、先に口を開いたのはクラピカだった。
「え?」
突如現実の世界へと引き戻されたレオリオは、どこかぼんやりしたままクラピカの方へと視線を戻した。
「関係ないって…、どういう意味だ?」
躊躇いがちに促してやると、クラピカは顔を上げて、小さく笑った。
寂しげな微笑みだった。
「……私がいくら望もうとも、実るはずのない想いなのだと…、分かっているから」
――だから、関係ないのだ。
そう言って静かに睫毛を伏せたクラピカに、かけられる言葉が見つからず、レオリオは黙り込んだ。
――初恋が実らないというのは…、本当の事なのだろうか?
クラピカが問いかけたその言葉が、レオリオの頭の中にいつまでも響いていた…。
つづく。
なんとなくいつもと違うレオクラが書いてみたくなってやらかしてみたw
気が向いたら続き書きますです(´∀`*)