レオクラ♂

□おかえり、ただいま
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おかえり、ただいま








――レオリオの帰りが遅い…。





クラピカは先程から落ち着きなく、壁に掛かった時計を見て、再び手元の本に目を落とし、そしてしばらくしてからまた時計を見上げるという行動を繰り返していた。



(あの馬鹿…。夕飯が覚めてしまうではないか…)



せっかく、今夜は彼の大好物であるビーフシチューにしたというのに。



「……」



チラリ、とテーブルの上に置かれた携帯電話に目をやったが、一向にそれが鳴る気配はない。

先程こちらからかけてもみたのだが、何故だか繋がらなかった。



「……」



何となく落ち着かずに、今度はテレビの電源を付けて、チャンネルをいじってみる。

お気に入りのショッピングチャンネルでは、今新製品がズラッと並べられ、司会者が興奮気味にそれらを紹介しているところだった。



「……」



いつもなら、一も二もなく見入って、ことと次第によってはテレビに映し出されているフリーダイヤルに電話をかけるところだったが、何だか今夜はそんな気分にはなれなかった。



(…何をしているのだ、まったく…!)



普段なら、マメなレオリオは講義を終えて帰る前に、必ず電話かメールで連絡をくれるはずだった。

だが、今夜はその様子が無い。



カチ、カチ…



時計の音がやけにうるさく耳に入ってくる。

クラピカはテレビの電源を切って立ち上がると、何とはなしにキッチンへと向かった。


シチューは当然ながら、もうとっくに冷めてしまっている。
彼が帰ってきたら、また一から温め直さなければならないだろう。



(…レオリオの馬鹿)



心の中でぽそっと呟いてみる。

その時、玄関の方でカタッと物音がしたような気がして、クラピカは慌ててそちらの方へと向かった。



(まったく、やっと帰って来たか!遅いのだよ!)



こうなったら、少しお仕置きしてやろう。
拗ねた振りをして、困らせてやるのだ。


そんな事を思いながら、クラピカはスリッパの音を響かせて玄関へと向かった。


ともすれば急ぎ足になってしまう自分を戒めて、わざとユックリ歩く。

頭の中では、レオリオに言うつもりであるお小言を繰り返し思い浮かべながら。





…が、そこには、レオリオの姿はなかった。

シン…と静まり返った廊下があるだけだ。

先程の物音は、結局のところ気のせいだったということだろう。



「……」



クラピカは無言のまま、リビングへと戻る。

そしてそのまま、ぽふっとソファーに埋もれるようにして腰掛けた。

エアコンはついているはずなのに、何故だかとても肌寒く感じる。

見慣れたはずのリビングが、やけにだだっ広く見えた。



(全部あいつのせいだ…)



レオリオが、そばにいる事に慣れすぎてしまったから。

彼がいない今、その事にすごく違和感を感じてしまう。

















10分後…。





クラピカはベランダに出て、そこからアパートの下を見下ろしているところだった。

12月という事もあって、空気は指すような冷たさだ。



「はぁ……」



吐いた息が白い。

クラピカは手と手をこすり合わせ、その場所にふぅっと息を吹きかけた。



それにしても、遅い。



リビングの時計は、もう夜の8時を指している。

いつもなら、とっくに帰って来て、一緒に夕飯を食べている時間だ。

どんな失敗作でも喜んで食べてくれるレオリオの笑顔を思い出す。



(一体どこで何をしているのだ…。あの馬鹿…)



だんだん、苛立ちが募ってきた。



(私がこんなに心配してやっているというのに、連絡の一つも入れずに!まったく、呆れた男だ!)



ぷりぷりと怒りながら、クラピカは室内へと戻った。
身体が芯まですっかり冷えてしまっている。


暖房の暖かい空気がやけに熱く感じるくらいだ。

クラピカはソファーに力なく腰掛け、そのままころんと寝転がった。



(レオリオ…)



心の中で名前を呼んでみる。

途端に、怒りの気持ちは治まり、次に襲ってきたものは…不安だった。



彼に何かあったのではないか?

という、不安。



クラピカは自身の肩をギュッと抱き締めた。

もしかしたら事故か何かに…と考えてから、慌てて首を横に降る。



(私は一体何を考えているのだ!帰りが少しばかり遅いからと言って…)



否定してはみるが、不安は拭いきれない。



もしもレオリオの身に何かあったとしたら?

彼が…目の前から消えてしまうようなことがあったら、自分は…。

叫びたいような衝動が、喉の奥からこみ上げて来るような気がした。




駄目だ、そんなの許さない。

レオリオがいなくなるなんて、そんなの絶対に絶対に許さない。

彼の存在は、自分にとっての、ただ一つの光。



希望なのだ。



(レオリオ…)



はやく、はやく帰ってきて。



先程まで怒っていた事をすっかり忘れ、クラピカは祈った。




レオリオに会いたい。



「クラピカ〜」と、能天気に自分の名前を呼んで来るレオリオの声が聞きたい。

へらへらと笑う顔も、抱き締めて来る広い胸も…。



全部が全部、恋しかった。






と、その時…。



ガチャリと玄関の扉が開く音がし、クラピカは反射的に身体を起こした。

一呼吸置いて、



「クラピカぁ〜!ただいま〜」



という声が聞こえてくる。

この間伸びした能天気な声は間違いない、



「!レオリオ…!」



クラピカは慌てて立ち上がると、そのまま玄関まで駆け寄ろうとして、…思い留まった。

これでは、いかにも「帰りを待ってました!」というかんじではないか?

お得意の変なプライドが働いてしまう。



クラピカは自制心を振り絞って、わざとノロノロ玄関に向かう事にした。

本当は早く駆け付けたいし、彼の顔を見たかったのだが。


廊下に出てかれの姿が見える所にでると、レオリオは履いていた靴を脱ぎ、ちょうど玄関に上がった所だった。
こちらに気がついて、一気に締まりの無い笑顔になる。



「クラピカ!会いたかったぜ〜!!」



「…やけに遅かったではないか」



あえてそれをスルーして、クラピカは問い詰めるように声を掛けた。



「あ、もしかして心配してた?」



レオリオは悪びれた様子もなくそんな事を言って来る。



「ば、馬鹿者。別に、心配などしていない!!…していないのだからな…っ…」



自分でも、頬がかあっと赤らんだのを感じた。

…ばれていないことを祈るしかない。

レオリオは「そうかよ」と言ってクククッと笑っている。



「…悪かったな、遅くなっちまってよ。携帯にかけようにも充電なくなっちまってさ」



「……」



繋がらなかったのはそんな理由だったのか…と呆然としていると、

レオリオが腕を伸ばして、クラピカの身体を抱き寄せてきた。

暖かい胸に、クラピカは無言でその頬を寄せる。


人しれず、ホッと溜息が漏れた。



「心配かけちまったか?」



「……」



ぎゅ、とクラピカはレオリオのコートの端を握り締めて、しばらくののち、こくんと頷いた。



「…当たり前だろう。…馬鹿者…」



背中に回されたレオリオの手に、力が篭ったのが分かる。

そのまま、頬を両手で包まれ、あっという間に唇を奪われてしまった。



「…ふ…」



クラピカもちょこっと背を伸ばして、レオリオのキスに答えるように彼にしがみつく。



「ん…ん…」



角度を変えて触れ合うだけのキスは、とても暖かくて心地よかった。



レオリオが傍にいてくれる。

その事が実感できるだけで、こんなにもこんなにも、穏やかな気持ちになれる。



やがて唇が離され、クラピカはぽんやりとレオリオを見上げた。が、すぐに我に帰って怒ったように頬を膨らませる。



「っ…ず、ずるいぞ、レオリオ!こんなもので誤魔化す気か?!」



「別にぃ〜?俺がしたかっただけ♪」



手を繋いで廊下を歩く。



「…だいたい、なぜ帰りがこんなにも遅くなったのだ?」



隣の長身を見上げながら尋ねると、レオリオはニヤニヤと口元を緩ませた。



「これだよ、これ」



そう言って、ひょいと片手を上げて見せる。

そこには見覚えのある袋がぶら下がっていた。

確か、2人でよく行く洋菓子店の袋だった気がする。
クラピカのお気に入りの店だ。



「今日の夕方から限定発売のケーキがあってよ、講義終わってからソッコー行ったんだけどすっげー並んでて苦労したぜ」



「な…」



その理由に、思わず空いた口が塞がらなくなってしまう。



「お前、あそこのケーキ好きだろ?後で紅茶入れてやるから、デザートにでも食おうぜ」



なっ?と笑顔を向けられて、クラピカも思わず微笑んでしまう。



(馬鹿だな、この男は…)



講義と実習でクタクタのくせに、限定ケーキなんかのために並ぶなんて。

それでも、嬉しかった。

デザートにケーキがあることも、それよりも何よりも、レオリオが今こうしてここにいてくれることが。



「……」



クラピカが無言でぴたりと立ち止まると、レオリオもつられて歩みを止めた。



「ん?どした?」



不思議そうなレオリオの表情を覗き込みながら、爪先と腕を伸ばしてギュッと彼の首元にしがみつく。



「クラピカ…」


そのまま顔を上げて、レオリオの唇に自分の唇を不器用に重ねる。

レオリオは一瞬だけ驚いたようだったが、すぐにクラピカのキスに答えるように腕を伸ばして抱き締め返してくれた。


何度も何度も唇を重ねて、お互いの存在を確かめ合う。



「……おかえり、レオリオ…」



唇を離し、クラピカは彼の耳元で囁いた。



「ああ。ただいま、クラピカ」



レオリオは少年のような無邪気な笑顔でそう返してくる。

そして、次の瞬間…



「ひゃ…っ?」



クラピカの身体は宙に浮いていた。
正確には、抱き上げられた、のだ。



「なな、なにをするのだっ?」



慌てて目の前のレオリオを睨むが、彼はニヤニヤと微笑むばかり。

心なしか、その足がリビングではなく寝室に向かっているような…。



「可愛いクラピカちゃんに、もっともっと俺が帰って来たことを知らせてやろうと思って♪」



「なっ、も、もう充分だ、馬鹿者!…っこの…っ、降ろせっ!降ろさないかっ…!」



クラピカの叫びも虚しく、そのまま寝室に引きずりこまれてしまう。

そして思う存分たっぷりと、彼の存在感を身体の奥で受け止めるハメになったのだった。








そして情事の後、レオリオの腕の中。

気だるい心地良さの中、クラピカは思う。



(やっぱりここが、いちばん落ち着くのだ…)



広い胸に顔をうずめると、レオリオが髪を撫でてくれる。




大好きなレオリオの、腕の中。


世界で一番落ち着ける、自分の居場所。





(おかえり、レオリオ…)





――ただいま、クラピカ。





レオリオの声が聞こえたような気がして、クラピカはこっそりと、口元を緩ませるのだった。








end





やっぱりピカはレオリオさんが好き(*´▽`*)


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