レオクラ♂

□大切なひと
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人はそれを、運命と呼ぶ――









◇大切な人◇








「終いにゃホントに襲うぞ」


レオリオはそうぼやきながら、枕に顔を埋めた。


(…なんて、本気で襲うわきゃねーだろ。俺にそっちのケはねぇっつぅの)


だが、先程こちらがシャワールームから素っ裸で出てきた時のクラピカの反応を思い出して、こっそりと笑ってしまう。

普段は白い頬を真っ赤に染めて、もの凄い勢いで掴みかかってきた。

威勢よく叩かれた頬がまだヒリヒリと痛む。


(…そりゃまぁ、あいつは顔だけ見てりゃ女みてぇだし、ぶっちゃけた話、結構好みだがよ…って俺は何考えてんだ一体っっ)


レオリオは深く溜息をついた。


(……チクショウ)


心の中で悪態をついてはみても、自分の気持ちに嘘はつけない。


(…俺はクラピカの事が気になってる)


これは隠す事も、誤魔化す事も出来ない事実。


どうしようもなく彼に惹かれている。

普段は冷静な態度の裏に隠されてはいるが、そんな彼が時折見せる寂しげな表情。

自分の一族の事を語る時の、頼りない背中。


(…ちっ…)


それらを目にする度、守ってやりたい、なんてガラにもなく思ってしまうのだ。


(…野郎相手に何思ってんだか。…第一あいつは俺なんかが出しゃばらなくても充分強えじゃねぇか)


と、自分の中で言い訳の言葉を今までに何度も何度も繰り返し呟いてきた。

そうやって自身を無理やり納得させて、芽生え始めている感情に蓋をする。

気付かない振りをする。

そうすればきっと、いつか自分でも意識しないうちに、この気持ちが消えて無くなってくれるのではないかと…。
そんな一抹の希望を抱いて。



――だが、無駄だった。



何度蓋をしても、何度無視をしようとしても、勝手にクラピカを目で追ってしまうのだ。


どうしても、放っておけない。
側にいてやりたい。


いや、側にいたいのだ、自分が。


(…どうしちまったんだよ、俺はほんとに…)


ため息をつくしかない。

そっと身体の向きを変え、クラピカの方に向き直る。

彼はこちらに背を向けて寝ころんでいた。


「…クラピカ、もう寝たのか?」


声をかけてみる。

だが、彼からの返事はない。
どうやら眠ってしまったらしい。


「……」


レオリオは身体を起こし、ベッドから降りた。

そして、音を立てないように気をつけながら、クラピカのベッドの方へと歩み寄る。


「…ん」


クラピカが身じろぎをした拍子に、柔らかな金色の髪の毛がサラリと揺れる。

細い肩が動き、顔がレオリオの方へ向けられた。

ふっくらとした白い頬に、長いまつ毛が影を落としている。


(…こんなガキみてぇな顔して…)


胸がズキンと痛む。

普段は、ともすれば他者を拒むような冷たい表情を見せているクラピカも、今はまるで幼い子供のようにあどけない顔で目を閉じている。


当たり前だ。
彼はまだ17歳。


本来ならば、親の庇護の元に、友人とくだらない話をして笑いあったり、恋人と戯れたり、ありきたりだが平凡な日常を送っていてもいい年頃なのだ。


(……こんなちっせぇ手で、今まで1人で生き抜いてきたのか?)


シーツの上に置かれた白い手の上に、そっと自分の手の平を重ねてみる。

レオリオ自身の大きく骨ばった手と比べると、クラピカの手は細く小さく、驚くほどに頼りなかった。


(…ああ、駄目だな)


レオリオは内心ため息をつく。


(俺はこいつが好きだ。好きなんだ…)


今はっきりと確信した。


守ってやりたいとか、悲しませたくないとか、笑わせてやりたいとか、色々な思いが胸の奥深くを渦巻いている。

だが、そんな物は自分の中に潜む、あるひとつの確かな思いの上に成り立つ感情でしかない。


(俺は、こいつにどうしようもなく惚れちまってる…)


自分で言うのも何だが、レオリオは自身を恋多き男だと思っていた。

好みの女性を見つければ迷う事なくアタックしてきたし、フラれてもめげずに次の女の子を探しては声をかける、その繰り返しで来た。

そして彼自身は、それらを恋だと信じて疑わなかった。



――だが、じゃあこの気持ちは一体何だ?



自分が今クラピカに抱いている感情。

もしもそれを恋と呼ぶのなら、今まで自分がそれだと認識していた気持ちとは全くの別物と言ってもよかった。


(…こんなの、俺は知らねぇ…)


相手の事を、ただ純粋に思う気持ち。

幸せになって欲しい。
そして出来れば、自分が幸せにしてやりたい。


(好きだ、俺はこいつが好きだ。どうしようもなく…)


溢れてくる。


気持ちが、抑えきれない。
コントロールできない。


生まれて初めての経験だった。


そしてこれが、本当の意味での自分の初恋なのだと、レオリオは悟った。
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