■藍屋秋斉■D
□[時]
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秋斉side
「…あのっ藍屋さん…」
聞きなれたはずの声が、見知らぬ人を呼ぶように緊張を纏い俺を"秋斉さん"ではなく"藍屋さん"と呼んだ…。
「本当に記憶をなくしたようだね」
まるでここに初めて来た時のように、いやそれ以上に怯え俺達を見る目が涙に濡れている名無しさんを見て慶喜が呟く。
「言葉にせんでもわかりますよって」
言い表せない複雑な思いを慶喜に向けた言葉に苛立ちとして含ませた。
苦虫でも噛み潰したかのようにギリギリと。
どうにもできない感情を消化する事も表に出す事もできず身体の中に何かが溜まっていく。
それを感じつつも、平静を装いまた最初から名無しさんとの時間を作らなければならない。
ここで名無しさんを見捨てる事はできない上
せっかく苦労して手に入れた名無しさんをこのまま記憶喪失だという病魔に妨害されるわけにはいかないのだから。
「残念だったね、秋斉。
せっかくお前のものになったと思ったのに…」
どこか嬉しそうな慶喜を尻目に、小さく震える名無しさんに手を伸ばした。
「別に記憶なんてどうでもええ。
また手に入れたらええだけの話や」
それだけの自信があるのだからはっきりと言葉にした俺に、慶喜は頭の後ろで両手を組んで盛大なため息を吐き出した。
「なんだろう。振り出しに戻ったはずなのに勝てる気がしない」
天を仰ぎ、あ〜あと声を零す慶喜は伸ばした掌で俺より先に名無しさんの頬をそっと撫ぜた。
「大丈夫だよ、名無しさん。お前には秋斉がいるのだから。
大事にしてもらえるよ」
少しでも安心させようと言った言葉だろううが、そんな事
「お前に言われる筋合いはない」
言われるまでもなく、俺は名無しさんを大事にする以外考えていない。
あれだけ俺の腕の中にいたはずの名無しさんが、今はもう抱きしめる事なんて出来ないが
それでもいつかまた、この腕の中が安心できる場所であると気がついて欲しい。
共に過ごした時間をやり直すにはさほど長くない共有時間だったが
考え方によってはまた、あの頃の時間を過ごせるのは幸せなのかもしれない。
もう二度と感じる事のできなかった、名無しさんが俺を好きになっていくその仕草をまた見れるのだから…。
終.
高杉晋作
「記憶喪失ネタは長編でいつか書いてみたいが…」
沖田総司
「月姫終わらせないとですね」
古高俊太郎
「花言もや」
土方歳三
「忘れていたわけじゃねぇぞ。忘れていたわけじゃぁな・・・」