■藍屋秋斉■D
□[綯]
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秋斉side
この世界のことを何も知らない一人の少女が
慣れない夜の世界に飛び込んで生きる術を見出した。
嫌なこともうれしい事もたくさん経験し
宣言通り、太夫となる…。
いつの間に身に着けたのか、男を惑わすように潤った唇をほんの少しだけ開く仕草。
気を持たせるような憂いを帯びたゆるやかな流し目。
自分だけを愛してくれていると思わせてしまうほどの巧妙な台詞。
甘い色香を撒き散らし、月の引力のように男たちを惹きつける…。
それなのに
ひとたび着物を脱ぎ捨てれば、その素顔は昔と変わらぬ少女のまま…。
ここに来た時となんら変わらぬ
純真無垢な名無しさんのまま・・・。
「秋斉さんっ」
ただいまと言う言葉を俺の名に変えて。
ほっとしたような笑顔で飛び込んでくる様は複雑そのもの。
俺はいつまでも
この娘の親のような存在なのだ。
抱きつかれる仕草も、赤子が父に懐くようなもので
そこに何一つ愛情はない。
向けられる視線や感情は、唯一つ
保護者というものへの安心感…・。
それがいつか恋に変わることはないだろう…。
いくら期待しようとも、皆無なのだ…。
終.