■藍屋秋斉■D
□[容]
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秋斉side
ほんまに…。
なんでこん娘はこうも男に好かれるんやろか…。
目の前で口説かれる自分の女。
場所が場所で、立場も立場。
しかも相手は得意先の若旦那。
遊女としてはいい縁談だと喜ばしい事なのに、名無しさんは別。
ほかの男に嫁がせるわけにはいかない。
"許可しまへんえ"
今まで我慢していたが、いい加減限界だ。
急に俺が口を開いたものだから名無しさんを始めとする皆の視線がこちらに集中する。
「旦那はん、すんまへん。そん娘はわてのもんなんや」
言いながら二人の傍に近づいて。
伸ばした手で名無しさんの腕を掴み、引き剥がすようにこちらに引き寄せる。
少々強引な仕草なのは、"わてのもん"と言った言葉が楼主という意味ではなく
一人の男としてという意味だとわからせるため。
それからもう一つ、特に分からせる人物にはもう一言。
「名無しさんはん、あんさんわての目の前でほかの男に口説かれるやなんて…
困った時になんでわての傍に来ないんや」
少々叱るような口調。
胸元で驚きと叱られた事によって身体を縮こめる名無しさんは、それでも何かを伝えようと必死に口をパクパクさせている。
「なんや」
不機嫌な自分の気持ちが声色に乗る。
「いや…あの…だって…」
歯切れの悪い名無しさんの向こうから、さっきとはまた違う遊女達の悲鳴が上がる。
「…いいんですか…?私たちの事ばらしてしまって…」
途端に興味津々な遊女達。
それから驚いて声の出ない若旦那を尻目に、俺はゆるりと目を細めた。
「自分の女がほかの男に取られようとしてるのに黙っていろと?」
思わず鉛を忘れた言葉が名無しさんの上に零れていった…。
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