黒と緋の鏡
□はじまりの夜
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「今日も平和だねぇ、もっくん」
「そうだな…。とゆうか昌浩や、こんなのんびりしていて平気なのか?」
「のんびりするもなにも、怪しい妖気は感じないしさぁ」
夜の都を散策中ーーではなく、夜警中のこのあどけない少年。
彼はあの稀代の大陰陽師、安倍晴明の孫であり唯一の後継である安倍昌浩である。
昌浩の肩に乗っかる奇妙ないきもの。
果たしてこれをいきものといってよいのか不明だが、物の怪のもっくんという。
ちなみに命名は孫である。
彼らは今、碁盤のような形をしている都の外れまで足を伸ばしていた。
「昌浩、ここら辺はなんもないんじゃないか?」
「そうだね…。なんもないね」
首の後ろに手をあて、眉を下げる。その仕草がまだ幼さを残していた。
今日、ここまで来たのは昌浩の夢見が奇妙だったからだ。
それを祖父に話し、この場所ではないかと来てはみたがーーー…
「なぁ昌浩、それってどういう夢見だったんだ?」
物の怪に言われ、目を閉じる。
「ーー湖かもしれない川だったかも…。女の人がそこにいて、
誰かを抱きしめながら泣いてたんだ」
辺りは暗かったのに、水だけは鮮明に見えて、後ろ姿だけだったけど酷くかなしげで…
「陰陽師のみる夢には意味があるーー、半人前でも昌浩がみたならもう少し見回ってみるか」
物の怪のふさふさの尻尾が頬をなでそのあったかさに笑みがこぼれる。