黒と緋の鏡

□第一夜
1ページ/5ページ



広大な敷地にたつ安部邸は京の鬼門を守っているという。

「姉上、ここに大陰陽師がいらっしゃるのですか?」


耳元で呟くように問いかけられ、そうねぇと答える。

視線を動かし、人以外の気配を確認する。


「まあ紡を保護するのにはとても適してる場所ね。そう簡単に破られない結果がはってあるし…」


「亜季さん、いい?」

「ええ」

安部邸に向かう途中、石化していた少年が自らを安倍昌浩と名乗った。どうやら身長が高いことに驚いていたらしく、慌てて名乗ったのだ。


身長が高いのは君より年上だからーーー、といった途端安心したようににっこり笑った。


うん、かわいい。



「じい様、入ります」


がらっとひらく戸。
目の前の円座に座る老人が人懐っこい笑みを浮かべて手招きしてくる。


「失礼します」
「ます」



こくり、とちいさく紡が頭を下げる。
勧められた円座に座ると紡を隣に座らせ、正座する。


「まず名前を教えていただいてもよろしいかのぉ」


「ーー亜季、と申します」
「…」

ぎゅっと腕をつかむ紡。
布の上から頭をなで、安心させる。


「この子は紡といいます。
貴方が安倍晴明殿ですか」

「いかにも。安倍晴明と申すものです」


ぴくりと紡が反応する。
パタパタと扇子をあおぐ老人におずおずと尋ねた。


「あ、の…晴明さま」
「紡殿、でしたな。どうなされました?」



優しげな老人にいきなり頭を下げた。



「おねがいします!僕たちに力を貸してください!」




びっくりした晴明と昌浩。
亜季は微笑ましく黙っている。
しばらくの沈黙を守って、晴明は優しく紡に尋ねた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ