黒と緋の鏡

□第四夜
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***


京の都より少し外れに位置するその神社は知る人ぞ知る‘先見’の神社である。
平安初期に建てられたとされる風祀神社はその土地の人々に「風祀り神社」とも呼ばれている。

木々が生い茂り、広大な社には神を祀るための立派な祭壇が存在していた。


ーーー神の御前に広がるのはひとつの黒い繭。静かに胎動しているそれは時間が経つに連れて大きくなっている。

繭の側に佇む1人の壮年の男。
繭にふれ、満足気に微笑んだ。


「ーーふむ、いい調子だ…。
大きく育つのだ我が化身よ」


男は繭の観察を終えるとその奥の敷居を跨ぎ、奥の部屋へと歩みを進めた。
室内をもやっとした黒い空気が覆う。ーー瘴気である。瘴気が充満する部屋の中央にはひとつの布団が敷かれていた。



生きているのか不思議なくらい青白い肌と、浅い呼吸。美しい黒髪が扇状にうねっている。人形のような女性が力なく手を布団から投げだしていた。


男は女性の枕元までくると舐めまわすような仄暗い笑みを浮かべた。


「ーー久遠(くおん)といえど、この瘴気には勝てなかったか。」


男の声に女性のまぶだがうっすらと開く。

「……ぬ、か……せ」

わずかに声を挙げた女性に些か驚くも、ためらいもなく女性の頤(おとがい)を持ち上げた。
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