小説
□卵焼き
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甘い匂いが充満していた。玄関には女の靴が散乱している。
浜田は買い物袋を下に置くと、静かに靴を脱いだ。
冷蔵庫には食料と呼べる物が何一つとして入ってなかった。を見れば大量のカップラーメンの空。そんな事は浜田にとって想定内の事で、それなりの食料はスーパーで買ってきた。
浜田は買い物袋から卵を取り出し、早速と調理を始めた。
料理は得意では無いが、唯一出来るのが卵焼きなのだ。米も炊ける。野菜炒めもそれなりに。味の問題は別として。
時折、ベッドが軋む音と喘ぎ声がキッチンまで聞こえくるが、浜田はたいして気にしてはいなかった。
暫くしてキッチンの扉が開いた。
と同時にキッチン内に甘い匂いが広がった。
浜田が振り返れば、そこに松本の姿があった。
「何?それ」
「卵焼きや
俺はこんなもんしか作れへんし」
「ふうん…」
松本は浜田の背中にピットり身をくっ付け、フライパンの中身を覗きこんだ。
「うまそー」
「そうかいな 」
甘いに匂いがする。鼻が捥がれそだ。
不意に、松本の掌が浜田の首筋をなぞった。ビクンと柔な神経が反応する。
「まっ…」
し。 と松本は人差し指を浜田の唇に当てた。その指からは酷く花の匂いがした。
浜田は松本に身を委ねる事にした。心はカラカラ。何も感じない。
ーーあーあ、卵焼き焦げてまうやんか
女の臭いがする。そう、貴方からはいつも。それでもよかった。
抱かれないよりはマシだった。
例え、名もなき愛だったとしても。