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□花
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「みーさーき先生ー!」

「お、今日は随分早く起きたんだな。いいことだ」

この学園に来てしばらく。いつも岬先生の部屋に泊まったときは朝早く温室の世話に出てしまう彼におはようのあいさつができない。

だからここ最近の習慣として、岬先生の部屋に泊めてもらった日は、私も早起きして植物のお世話を手伝うことにしたのである。

それでも岬先生が起きる姿をまだ見たことがない。いったい何時に出掛けているのだろうか…謎。

「今日はいったい何をしているんですか?」

「いつも通りの水やりと、それから…花の種を植えようと思ってな」

「花の種!わぁ、何のお花なんですか?」

「さあな」

「え?」

くすりと笑って、何の種だと思う?と問題を出される。

種の色は不思議なピンク色でとても可愛らしい。

岬先生のことだから多分アリスで作られた花の種だとは思うけど………むむむ、むむむむむ…。

悩みに悩み抜いたがさっぱりわからなかった。

「わかりません…」

しょんぼりと残念な答えを返せば、岬先生は、「悪い、意地悪な問題だったな」とまた笑った。

今日の岬先生は本当によく笑うなぁとついキレイな顔にじっと見とれてしまう。

「この花は、真実の花というんだ」

「真実の花?」

「今日原がまた手伝いに来るんじゃないかと思って持ってきたんだ。この花は、誰かのために植える花。」

「誰かのために、ですか?」

「そう、真実力になりたい人や思い人のことを思って植えると、その咲いた花に植えたもののアリスが宿る」

「何だか随分ロマンチックな花なんですね…アリスストーンみたい」

「まぁ似たようなものだろうな。だがこの花に宿ったアリスは、思いを込めた相手にしか使えない」

「へぇー…でもどうしてこれを私に?」

こんなロマンチックな花の種を私が来る時のために用意しておいてくれたというのだから不思議に思う。

「お前が、いつか元の世界に帰る日ことを、俺なりに考えてみたんだ」

ドキリ。

そう、私は元々こちらの世界に飛ばされてきた。いつ帰れるのかは分からない。今日この瞬間かもしれないし、明日かもしれない、でも10年後かもしれないし、もしかしたらここで一生を終えるのかもしれない。しかしそれは逆を返せばいつまでここに居られるのかも分からないということだ。

その時のことを考えると、どちらがいいとも言えず、胸が締め付けられるような思いがする。

大切な人たちがいるのはどちらも同じだ。

「私が帰る日、ですか…」

「ああ、お前はまだ学園にやって来て日は浅いが…ずいぶん、馴染んだ。俺や鳴海もそうだが、お前の同級生たちもお前を慕っているのがよく分かる」

「そんな、大袈裟です」

「いや。お前は不思議なやつだ。いつのまにかそばにいて、一番心に響くような言動、行動を時にする。救われていると…思う」

こんな歳になって小学生にこんなこと言うのも情けない話だがなと岬先生は苦笑いをして、種を見つめた。

「でもお前がいついなくなってしまうのかと考えたら、今過ごしている日々の記憶が消えてしまわないとは信じているが……物として残る何かが欲しいと思ってな」

「私がいたという、証明みたいなものですか?」

「簡単に言ってしまえばそうだ」

種を指先で大切そうにいじりながらいう岬先生はちょっぴり寂しそうに見えて、私は罰当たりにも、少しだけ、嬉しくなってしまった。

「私も、欲しいです。証明」

「え?」

「私、帰りたいとも思うけれど…同じくらいここにいたいって気持ちも強いんです。大好きな、大切な人たちがいるこのアリス学園に。」

大切な出会いをくれたもうひとつの母校。

「だから、私の大好きな人たちに…いつか私がいなくなる日が来ても、覚えていて貰えるように。………先生、花の種、2つもらえますか?」

「2つ?」

どうして2つも植えるのか分からないというように不思議そうな顔で先生はそれでもしっかり2つ手渡してくれた。

「帰るまでの間は私、毎日このお花のお世話しに来ますね!」

「…ああ、そうだな。枯らしたりするなよ?」

からかうように言う岬先生に、そんなことしませんーと頬を膨らませて返す。

笑い合いながら種を植えて、2つの種に思いを込める。

1つはここで出会ったすべての人たちへ。

もう1つは、ここで芽生えた特別な気持ち。その思いの向かう先にいる、あなたへ。

恥ずかしくなって赤くなる頬をうつむいて隠しながら、岬先生を盗み見る。

微笑ましそうに優しく見守ってくれるあなたに、いつかこの花に込めた思いが伝わりますように。








花を手にとって、驚いて…岬先生の特別な思いの片隅にでも、私がいてくれるようにと願う。



それはさよならを前提に植えた、淡い恋心。



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