夜。今日は鳴海先生のお部屋にお邪魔しています。
温かい紅茶を出してもらってオレンジのランプに照らされながら今日あったことを話す。
「ねぇ、先生」
「ん?」
「私、棗君にアリスなんて無いといいなって言われたんです」
「…棗君が、そんなことを?」
「意地悪でとかそういうことじゃなくて………。アリスって、何なんでしょうね。
望んでいなくてもアリスがあるってだけでいい意味でもあまりよくない意味でも特別で。でも私は…正直、もし自分にアリスが見つからなかったら…困ります。」
「……」
「ここを出されてしまえば私はきっと生きていくのに困ります。…でも、棗君にそう言われて…私、何も言えませんでした…。」
「…どうして?」
「だって、ここには来たくて来たわけじゃない、アリスが欲しくて持っているわけじゃない人がたくさんいるでしょう?特に彼らは…とても、傷ついているように見えたから…。つらくてつらくて悲しくて、行き場がなくなって、だから気持を封じ込めて強がる。それはとても…とても……」
「…まことちゃん……」
ぽろぽろと涙があふれて止まらない。
鳴海先生が涙をぬぐってくれるけど、それが余計に涙腺を緩めさせる。
帰りたい…。私は彼らに何もしてあげられない。
顔を上げれば思った通り、まるで自分のことのようにつらそうな鳴海先生がいた。
そう、鳴海先生もそんな彼らの一人。
重たいものを一人で背負ってもがいて…大人だから、やっかいで。
それはこれからやってくる蜜柑ちゃん達よりも複雑に絡んでしまっている。
そのつらそうな表情が、なぜか泣き出す前の子供のように見えて、私はぼろぼろ泣きながら先生をぎゅっと抱きしめた。
鳴海先生は一瞬驚いたように体を強張らせたけれど、少したって優しく抱きしめ返してくれる。
まるで本当の小学生になったみたいだ。
子供のように泣いて、つらいことを見たくないと駄々をこねて。
「ごめんなさい。自分からアリスを必要としているのが悔しくなってしまったんです。お話、聞いてくれてありがとうございました」
「君は…そんな話ができるくらい、彼らと仲良くなれたんだね」
「傷を慰めあっているだけのような気もしますけど」
苦笑をもらせば、彼らを支えてあげてほしいと言われた。
この人はいつだって人のことばかり。
「…彼らに必要なのは……一緒になってつらいね、悲しいねって慰めあう相手じゃなくて、幸せを運んでくれる…太陽のような子」
「太陽…?」
「…いつだってここにいるよって温かい光で輝く、そんな子です。きっと、鳴海先生にも」
頭の中にいつかこの学園に来るであろう女の子を思い浮かべて笑みが浮かぶ。
はやくおいで。
君を待っている人たちがたくさんいるんだよ。
「…ありがとう。――そろそろ夜も遅いし、寝ようか」
ポンポンと私の背中をたたいて先生は立ち上がる。
いつまで抱きついていたんだ私…。
かぁと頬が羞恥で染まる。
「…一緒には寝ませんよ?」
「えーー」
きらきらと星のきれいな夜のこと。