バァン!
「おっはよー☆よくねむれたかなぁ?」
朝、底抜けに明るい鳴海先生の声で目が覚めた。
岬先生はすでに起きて出かけてしまったのか部屋には私一人だった。
「お、はようございま…す。」
寝て起きたら自分の部屋にいて、昨日のことはすべて夢だった。なんてことにはならなかったらしい。はぁぁと重たい溜息がでる。
「こらこら、朝からため息なんて幸せが逃げてちゃうぞ〜。さて、実は今日は君にプレゼントがありまーす」
ジャーン!!と誇らしげに掲げられたそれは、大きな襟に細く赤いリボンのついた黒の上着と赤と黒のチェックがかわいらしいスカート。
「アリス学園初等部へ仮入学おめでとう!これは君の制服だよ♥」
そう言って鳴海先生はまだベットに座っている私に制服を手渡しながら、「これからよろしくね」と今度は茶化したような言い方はせず優しく笑いかけてくれた。
そんな鳴海先生を見て、窓から見えるアリス学園の景色を見て、あらためて私は覚悟をきめる。
自分にアリスがあるとはとても思えない。だってトリップしちゃったけど普通の人間だし。だからきっといつまでもこの学園にいることはできないだろう。でも、でもここはあの学園アリスの世界。大好きだったあの物語の中。
あまり勝手なことはできないけれど、楽しまなきゃね!二回目の小学生活…小学生らしく振舞えるかは不安だけど…。
とりあえず今日これからの生活で守る私の中で決めたルール。
1.元いた世界の自分のことは話さない。記憶喪失だと押し切る。
2.主要人物およびこれから起こるであろう事件その他になるべく接触しない。
3.目立たない。
これを守りさえすればきっと私がいつか帰る時にもお話は壊れない。…はず。
私は学園生活をエンジョイするんだ!
「さ、着てごらん」
ニコニコと楽しそうな笑顔にうながされて真新しい制服に袖を通す。
サイズはぴったり。
「うん、思った通りだ。よく似合っているよ」
さりげなく見せられた鏡には、かわいらしい制服に身を包んだ自分がいた。
うわーうわーアリス学園の制服だぁ…。体は幼くなってしまっているけど思った以上に違和感のない姿にほっとして、それから気持が高揚する。
「えへ、えへへ…。嬉しいです、ありがとうございます」
鳴海先生のお世辞に素直に喜んで笑えば、彼は少し目を見開いてふわりと私を抱き上げた。
「やっと笑ってくれたね!かーわいーぞぉ〜」
くるくる回りながら安心したように、嬉しそうに笑ってくれるから、私もまた自然と笑顔になった。