book1

□居候影月話その後エピローグ
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◇Epilogue



「君は、宇宙みたいだ」

腕の中、思っていた以上に細く、そして温かな体を抱きしめていると、耳元でそんな声が聞こえた。
聞こえなかった、のではなく、意味がわからないと言うように密着させていた身体をわずかに離し、その顔を覗き込む。そうしてふと、どこか遠くを。俺を映しているはずなのに、俺を見ていない瞳を見つけた。

「馬鹿みたいに、広くて、遠くて、わかったような気でいても、なんにもわからない。それでもきっといつか、大人になればって、ずっと……」

酷く疲れたような声で、たどたどしくそう呟いていた月島は、最後に一つ溜息を落とし、瞳を閉じる。

「いつか……いつか宇宙に行けるって、そう思ってた」

呟かれた言葉に、既視感を覚えた。
いつ、どこで聞いた言葉だったか。それを思い出すよりも先に、何かをごちゃごちゃと考えるよりも先に、開いた唇からは言葉が零れ落ちる。

「今おまえの腕の中にあるなら、それで充分だろ」

ぱちりと、驚いたように開かれた蜂蜜色の瞳の中に、青みがかった丸いものがゆらゆらと揺れていて、それはまるで夜の空のコントラストのようで、びっくりするくらい綺麗だ。
月島が俺を見つめて、そうして俺も、月島を見つめて。そんなにらめっこのような間抜けな構図をしばらく続けていると、どこか強張った顔をしていた月島がようやく微笑む。

「それも、そうだね」

今更宇宙に行かせてやる気なんてさらさらない。だからと言って俺を宇宙にたとえたおまえが、俺に何を見ているのかなんて、そんなことは知らないけれど。
とりあえずぐちゃぐちゃ悩むことなんてないよう、ただ俺のことだけ考えていられるよう。
俺の星で、俺のケースの中で、そっと大事にしてやろう。
あの気難しくて面倒くさい、どこかの誰かのバラのように。





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