book1

□戦争、終わりました。でも
1ページ/1ページ









「はー喰った喰った、さすが姫川先輩。そこらでするバーベキューとは格が違ったなー」
「おー」
「やっぱお坊ちゃんはすげーなー。神崎先輩もなんか貫録っぽいの出てた気がするし、邦枝先輩は更に美しくなってたし、東条先輩なんか未だに筋骨隆々でさー」
「おー」
「でも先輩方、変わって無かったなー」
「…まーな」

ふわふわと、少しずつ色褪せていく空の下かなり緩やかになった風に前髪をなびかせながら、ぽつぽつと言葉を交わす。腕を付いたフェンスがぎし、と小さく軋むのを聞きながら、俺はそっと横目で懐かしそうに瞳を細め、微かに宴の残骸が残る校庭を眺める古市を見詰めた。
どこか寂しげな色を灯す薄い色の瞳に反射的に手を伸ばそうとし、しかしそれは一昔前の流行り歌に遮られる。古市のポケットから鳴り響いたそれは、サビの数秒間の後すぐに途切れた。
誰からだろう、と不思議そうに古市が最新機種だと自慢していたそれを取出し、かちかちと手馴れた様子で操作をしてからああ、と笑みを浮かべる。誰からだと聞いたら、あの殺六縁起の奴らからだと平然と言ってのけた。
ありがとうだって、また何かあったら誘ってくれ、楽しかっただってさ。そう言って笑う古市は本当に楽しそうで、何か言ってやりたい事があったような気もしたが、そんな無邪気にはしゃぐ古市を見ていたらどうでも良くなってしまった。
返信を打っているのだろう。人差し指で画面をなぞり、残りの指が所在無げに宙を揺れる。そして満足のいく文面が打ち終わったところで古市はカシャンとフェンスに背中を凭れかけさせ、携帯を高々と掲げた。

「でも、どんなに変わって無くても、時は流れてくんだよなー」
「……」
「そしたら、みんな当たり前みたいにばらばらになって、こうやって会う事も、思い出す事すらも、どんどん少なくなってくんだろうなー」
「……」
「なんか、寂しいよな。そういうの」
「…馬鹿め」

薄い色彩はぼんやりとした彩色の中に溶けてしまいそうなくらい儚げだった。だから零れ落ちないように、逃がさないようにとしっかり掴む。火照った頬を無理やり引き寄せ、押し当てたそこに灯る熱がどちらのものなのかは分からない。
驚いた様な顔をしている古市ににやりと笑いかけると、ぐしゃぐしゃと遠慮のない仕草でその綺麗な銀髪を掻きまわした。嗅ぎ慣れた汗の香りが、ふわりと鼻をくすぐる。

「どんだけ時が経とうが、俺とお前はずっと一緒に決まってんだろうが」

くしゃりと、いつもどこから来るか分からない謎の自信の元強気だった古市の顔が、一瞬だけ泣きそうに歪む。しかしすぐににかっと晴天の空のように清々しい笑みを浮かべると、力強く頷いた。

「おう!」

雲は風と同じ速さで流れていく。時はそれ以上の速さで流れていく。
でも今なら、この右手の温もりを感じながらなら、世界の果てだって、宇宙の外だって、どこまででも行けるような気がした。














───『石矢魔戦線、異状アリ』『本日も、そしてこれからも』


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ