ShortStory
□逆転現象
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小学1年生のころから私は近所の岩鳶スイミングクラブに通っていた。
正直、小学6年生にもなると魅力的だった水しぶきも、ただの水という印象しか受けなくなっていた。
そんな時だった。
彼が転校してきて同じスイミングクラブに通い始めたのは。
妙な時期であったために彼・松岡 凛は学校で見世物パンダのようになっていた。
その時はまさか同じスイミングに通うことになるとは思ってもいなかったが。
たまたま2・3日ぶりにスイミングに行くと彼がいたのだ。
1・2回しか会ったことがないのにも関わらず、
彼は人懐っこい笑みを浮かべ私に話しかけてきた。
「よう。霧氷。これからよろしくな。」
印象的な前歯を見せていった。
それから1か月経って、いきなり彼は私に言ってきた。
「なあ。霧氷って泳ぐの好きじゃないのか?」
図星を突かれた私はただ彼に、うるさいと八つ当たりして泳ぎを再開させた。
その日の練習が終わったあと、外に出ると彼は待っていたとばかりに近づいてきた。
少しだけ話しをした。
「おれ、今度、七瀬達とリレー出るからさ見てくれよ。
精一杯泳ぐから。優勝目指すから!」
リレーに出ることはすでに知っていた。
話を打ち切ることも簡単だった。
真っ直ぐな彼の気持ちが私の中に入ってきた。
そこから、私たちは話しもせず、ただ泳いでいた。