不安定な欠片

□始めたのはキミ、終わらせたのもキミ
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転送装置で送られたのは
厚樫山だった

最後の最後まで
守ってくれた鶴丸はもういない

代わりに折られた鶴丸の本体が
今は側にいる

けれど、
もう声をかけてくれることは二度とない

私はこれで本当に一人になった


刀剣達に傷付けられた所から
雑菌が入り膿み始め、骨は粉砕し
まともに歩ける状態等ではなかった

そんな状態でも彼は
私に慈悲などくれるはずがなかった

背後から聴こえてくる
聞き覚えるある足音に私は
悲鳴をあげる体に鞭をうって
振り返り微笑みかけた

『私を笑いに来たの?それとも殺しに?わざわざこんな所(厚樫山)まで貴方が来たんだもの、何かあるんでしょう?』

風でひらひらと揺れる
蒼色の着物

見習いの本丸乗っ取りに
加担し、刀剣達を率いた張本人
三日月宗近がそこにいた

「はて?
お主が何を言っているのか
俺にはよく分からんが.......」

ほけほけと笑う三日月に
私は怒りを覚えた

(よく分からない?
加州と共に私を殺す事に躍起になっていた貴方がまだ私を騙そうとするの?
そんな嘘に引っ掛かる訳ないでしょう)


『よく分からない?そう。またそんな事を言うのね......そうして私が信じたらまた、裏切るのでしょう?』

「........」


三日月は笑いながら
嘘をつく刀剣だった
そうして、
信じたところを突き落とす

三日月は私を信じていると
言ってくれていた
「主が見習いに暴力を振るうなど有りはしない」と
だけど
「はて?そんな事を俺は言ったか?まだ己が主だと宣っているのだ。こやつは偽りを言って俺達を惑わしこの本丸を壊す気だ」
そう言ってのけた

『ねぇ、三日月。私はね、貴方達を道具だなんて思ったことなんて一度もなかった。貴方達は私にとって唯一の家族だった』

「.......」


私が本丸の皆を
家族だと言っているが
心の底では
只の道具としか思っておらず
いくらでも代わりがきく存在だ
と思っている

そんな事を見習いが言ってから
刀剣達の態度が変わり始めた

言ってもいない嘘を言われたと
私が知ったのは
何週間も後のことだった

その頃には
大半の刀剣達は見習いについていた

それでも、私は彼等を信じていた
必ず戻ってきてくれると
彼等を信じている私の元へと
帰ってきてくれると

私はずっと信じていた。
彼女がついた嘘は見破られて
もう一度
あの優しい日々に戻れると...

しかし
現実はそんなに甘くはなく
信じるものが救われるなど
たんなる迷信に過ぎなかったと
鶴丸と二人になり
私は気がついた


「.........お主は」


三日月は
重い口を開いたが
私は三日月に喋らせないように
言葉を被せた


『だけど。何も伝わっていなかった。私の只の自己満足にすぎなかったのね。......もう分かったから、だから、このまま静かに眠らせて?』

「っ!?」


静かに死なせてほしい
そう口にしたとき
自分達が一番望んでいたことなのに
焦り始めた三日月に私は理解が出来なかった


『そうしたら、もう何にも囚われること無く、自由にいきられるでしょう?私が死ねば、貴方達の主は彼女に自動的に変わるんだから』

「っ!?待てっ!!!」


きっと私が死ねば
審神者無しの本丸になってしまい
本丸が解体されるかもしれない
ということを心配しているのだと思い
その必要はないと口にしたが
三日月はそんなことは
どうでもいいという感じだった

(本当によく分からない)

先程からピリピリと感じる
時間塑行軍とは違う空気に
私は笑みを浮かべた

(これでようやく眠れる)

三日月に折られた鶴丸を
鞘ごと抱きしめた


いつの間にか背後に迫っていた
刀の気配を感じ
私はそっと目を閉じた。

刀が骨を砕く音と共に
身を焼くような激痛が走り
立っていることすらままならなくなり
私は地面へ倒れこんだ

意識が朦朧とするなか見えたのは
私を労るような瞳をする三日月だった
そんな瞳の中にも三日月は
くっきりと見えていた。

(なんて綺麗な三日月なんだろう...)

三日月は何やら言葉を発していたが
もはや私には、
それが何と言っているのかすら
分からなかった

徐々に重くなっていく
瞼に逆らうこと無く私は瞳を閉じた

せめて夢の中でも
愛しいあの子達(本丸の刀剣達)と
過ごした
優しい日々に戻れるように



始めたのはキミ、終わらせたのもキミ





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