不安定な欠片

□話を聞くことが上手なあの子を誰か抱き締めてあげて下さい
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まんば君に本丸を
案内してもらうことになったが
この本丸はとても静かだった

鍛練場、手直し場、大浴場、鍛刀場、大広間、厨......

さまざまな所を見て回ったが
他の刀剣男子とは
すれ違うことすらなかった

(粟田口の子達と遊びたかったなぁ)

そんなことを思っていると
前を歩いていたまんば君が急に足を止めた

『ぐへぇっ!?』

まんば君の背中に激突した
顔面を手で押さえながら
彼の顔を見ると困ったような...
そう。まるで子供を
見るような目を送られた

「少しここで待っていてくれ。主に紹介したい奴がいる」

そう言いながら頭を撫でて
微笑むのだから
私のライフは尽きかけていた

(まんば君可愛すぎて辛い.....)

まんば君はそう言い終わると
スタスタと何処かへと行ってしまい
私はやっと
ずるずると床にへたりこんだ


『まんば君、可愛いのかカッコいいのかどっちかにしてくれないと私がもたないよ....』

そう言いながら
自身の手で火照った顔を冷やしていると
前にふわふわとした物が見えた

何だろうと首をかしげていると
トテトテと白い虎が歩いてきた

(五退ちゃんの虎さんかな?)

『虎さんおいでー』

声をかけると
虎は一鳴きした後に
物凄い勢いで走ってきた

『えっ!?ちょっ!? まって!!!』

そんな私の声も聴いてもらえず
虎は私の腹部に体当たりしてきた
思いの外重たかった一撃で
私は後ろへとパタリと倒れた

『.....虎さん強いねぇ』

私が苦笑いしている中でも
虎さんはとても楽しそうに
私の腹部にすりついていた

(可愛いなぁ....)

体勢を整えて
私は虎さんを撫でることにした
すると、すぐに

「薬研兄さん、僕の虎さん見ませんでしたか?」

「いや、見てないな。また何処かに行ったのか?」

「はい.....さっきまでは此処にいたんですけど」

「だったら、まだ遠くに行ってないだろう。一緒に探してやるから、そんな顔するな」

「はい!ありがとうございます」

という会話とともに
ふわふわとした白い髪の少年と
さらさらとした黒髪の少年が
先程虎さんが現れた曲がり角から
姿を現した

『あっ.....』

「へっ?」

「はぁ?」

目があった瞬間
二人ともポカンと目を丸くした

私はとりあえず

『やっほー。いい天気だね』

そう言い、笑うことにした。
その言葉を聴いた二人は
少しずつ瞳を潤ませた

「.....ある...じさん?」

「本当に.....大将なのか?」

『何か、そうみたいだね。とりあえず....おいで。五退ちゃん、薬研』

そう言い、手を広げると
五退ちゃんが泣きじゃくりながら
私の元へ飛び込んできた

「うわぁぁぁぁぁ!!主さん....グスッ」

『えっ!?ちょっ!?五退ちゃん!?何で泣いてるの!?』

グスッグスッと泣いている
五虎退にどうしたらいいのか
分からずに薬研に助けを求めるが
薬研はとてもいい笑顔で
微笑むだけだった

『五退ちゃん。もう大丈夫?』

「.....はい。あの...主さん、ごめんなさい。着物が汚れてしまいました」

『いいんだよ。五退ちゃんを抱きしめれたし。私は幸せな時間を過ごせたよ。ありがとう』

そう言うと五虎退は
ふわりと天使の笑顔を見せてくれた
その後、「他の人達にも主さんが来ていることを教えてきます」
そう言って、パタパタとかけていった

その後ろ姿を見送ってから
私は隣に座る薬研に目を移した

『.....薬研、おいで?』

「いやっ。俺っちは.....」

『薬研、おいで?』

「.............」

渋る薬研にもう一度声を掛けたが
薬研が来てくれることは無さそうだった

少し寂しかったが
保護者ポジションにある
薬研は人に抱き着くなんて
しないのだろうと思うことにした

が。

『っ!?』

ぎゅっと暖かい温もりに
包まれたかと思うと

「会いたかったぜ.....大将」

と抱き締めながら言うものだから
私はキャパ越えして

『っ!!!!??』

真っ赤になるしかなかった


話を聞くことが上手なあの子を誰か抱き締めてあげて下さい






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