運命に抗う物語

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『此処は何処?』

「此処はダリルシェイドの民家だよ」

涙が落ち着き
やっと話せるようになったので
彼に疑問をぶつけてみた
彼は先程まで泣いていた私が
急に話したことに驚いていた
しかし、直ぐ様優しい笑みを浮かべて
疑問に答えてくれた

窓から見える景色は
眠る前と変わらず夕焼けだ
つまり、私がさ迷っていた森は
ダリルシェイドの近くだったわけだ
もしかすると、あのまま進んでいれば
ストレイライズ神殿に
たどり着いていたかもしれない

「森の奥で眠っていたみたいだから、とりあえず安全な場所まで連れてきたんだけど...」

『?』

考えを巡らせていると
彼が私を此処まで
連れてきた経緯を話してくれた
しかし、変な所で話を区切ったので
私は頭にハテナを浮かべて彼を見つめた

「近くに君の両親と思われるような人がいなかったんだ。あの森に居たということは、セインガルド出身だろう。町の名前さえ教えてくれたら私が君をそこに連れていくよ。きっと君の両親も心配していることだろうしね」

『分からない....』

どう答えれば良いのか考えようとした矢先
私の口は何やら言葉を発した
私の言葉に彼も私も困惑してしまった

「分からないって...自分の家が分からないのかい?」

彼は私を頭の可笑しい子とは捉えずに
真剣な眼差しで私に問いた

そもそも、私のいたところには
ダリルシェイドなんて町はなく
地方にもセインガルドはない
私は彼の問いにどう答えれば良いのか
分からなくなり黙り込んでしまった

「なら、自分の名前は覚えているかい?」

『輪廻......』

自分で口にした名前のはずなのに
何故か私にはしっくり来ていなかった
志那河 輪廻......確かに私の名前だ
私の名前のはずなのに....

「リンネか....きっと、森でモンスターに襲われたショックで記憶を無くしたんだろう。」

彼が"リンネ"と名前を呼んでくれた瞬間に
自分の名前であると認識した
私が感じた違和感は"これ"だったのだ
この世界に輪廻はいない
ここにいるのは"リンネ"だ

「もし、君さえ良ければここに住まないかい?」

『えっ?』

自分で自己満足な解析をしていると
彼から耳を疑うような話が聞こえてきた
今.......何て言ったの?

「私が君を預かったんだ、此処で放り出すわけにもいかないからね。君さえ良ければの話なんだが」

どうかな?
と言いながら微笑む彼に私は
ペコリと会釈をした
それを承諾と受け取った彼は
良かった。と言ってくれた

「それじゃ、善は急げだな。」

と言った彼は
私がいる部屋から出ていった

『善は急げ?』

彼の言った言葉を復唱して
ハテナを浮かべた私は
部屋に近付いてくるバタバタという音に
体を硬直させた
バタンッと乱暴に開けられた扉から
入ってきたのはフィンレイと良く似た
髪色と瞳をした青年だった

「兄さんっ!!妹ってどういうことですk」

彼の言葉は最後まで続くことなく
私を視界にとられた瞬間
目を見開かせ
入ってきた時よりも乱暴に扉を開けて
出ていってしまった

そんなことよりも....
"妹"とはどういうことだろう
フィンレイに弟はいる
先程入ってきた彼がフィンレイの弟だ
しかし、妹などは聞いたこともない
私がこの世界に来たことによって
何か変わってしまったのだろうか?

「君.....名前は?」

『えっ?』

こちらを伺うように
というよりも扉の隙間から覗き込んでいる
先程の彼はそっと私に話し掛けてきた

『リンネ....』

「リンネか....いい名前だな」

彼はそう言いながら笑った
笑った顔はフィンレイよりも幼げだ

自分の名前を誉められるほど
良い名前だなんて思ったこともなかったので
彼の言葉には少し驚かされた

『貴方は?』

「えっ?」

『貴方の名前...』

こちらは名乗っているが
彼の名前を一様聞いておこうとしたら
彼は目を見開かせた
それほど驚かせるようなことを
しただろうか?

「アシュレイ.....アシュレイ・ダグ。よろしく」

扉から覗き込んでいる形でも良いのに
わざわざ私の前まで来て
名前を名乗る彼の誠実さを目の当たりにした
さらに、よろしく。と伸ばされた手を
私はどうしようかと、
とても悩んでしまった
しかし、このままでは失礼だと思い
そっと彼の手へと自分の手を伸ばした

『よろしく.....お願いたします」

そうすると彼は
顔を真っ赤にして
バタバタと部屋から
出ていってしまった

どうやら、彼は私が気に入らないようだ





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