運命に抗う物語

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目が覚めた。
何だか夢を見ていたような気がするが
私は全くと言って良いほど
その内容を覚えていなかった。

キョロキョロと辺りを見渡してみると
森ではなく、部屋のようだった。

私には、森で眠ってしまった記憶しかなく
何処かの宿屋に泊まる気力など
あったはずがない。
ましてや、出口を探して進み
迷った人間がどうして
出口をすっ飛ばして
宿屋に着けるのだろうか?

『そういえば.....』

確か眠る前に誰かの声を
聞いたような気がした。
そして、少しの浮遊感.....

TODの世界では人身売買などは
あっただろうか?
どうやら私の脳内は
幸せに出来ていないらしく
誰かが森から救ってくれたなどという考えが
すぐには出てこなかった。

考えを巡らせていると
部屋の扉が開かれた

咄嗟に逃げなればならないと思っていたが
私は恐怖で動くことが出来ず
ただ開かれる扉を直視するしかなかった。


部屋に入ってきた人物の
意思の強さを表すような
ガーネット色の瞳と目が合った

彼は私を見たとき
少し驚いたような顔をしたが
次第に笑顔に変わっていった

「目が覚めたようだね。」

そう言いながら
私が眠っていたベッドへと近付く彼に
私は何も出来ずに
ただ彼を見ていることしか出来なかった
何故なら彼は.....

「そういえば名乗っていなかったね。私はフィンレイ・ダグ。兵士のようなものかな?」

そう少し笑う彼を見て
私は逆に泣きそうになった。

彼は....フィンレイは
ダリルシェイド城を守る衛兵
七将軍の創始者だ。
しかし、原作が始まったときには
彼は既に暗殺されており
彼の話がされても全ては過去の話となる
そんな彼が、まだ生きている。
それだけで私は.....

「大丈夫かい?やはり、森で大きな怪我でもしていたようだね。」

床に膝をつき
ベッドに座る私の手を優しく包み込まれる
私にはどうして彼がそのようなことを
したのかが理解できなかった。
暫く彼を見ていると
自分の視界が何故かぼやけていることに
私はやっと気がついた。
何かが入り込んだのだろうと
目を擦ると滴が手に付着した
その時、初めて私は
自分が泣いていることを理解した。

どんなに手で擦っても
涙はおさまることなく
ダムのように流れ続けた。

嗚咽を噛み締めながら泣く私に
フィンレイは優しく背中を
撫で続けてくれていた



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