ハトアリ短編

□鈍感な君に触れるくらいの口づけを
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サンサンと輝く太陽
雲ひとつない晴天だ
それでも"暑い"とは
感じない不思議の国でも
フワフワなファーを
身に付けていたら
流石に暑いだろう

『ねぇボリス?』

「?」

頭に浮かんだ疑問を隣で歩く
チェシャ猫に聞こうとしたが
暑いの"あ"の字も
見えない彼にこの事を
問うのは何か
間違ってる気がしたので
話題を変えることにした

『あぁ・・・あれ!!ここで一番楽しめる乗り物って何?』

"ここ"とは
現在進行形でいる
遊園地のことであり
この時間帯もまた
沢山の人で賑わっていた

「なんか悩んでいそうな気がしたのにアンタが聞きたかったのってそんなこと?」

『っ!?』

話題を咄嗟に変えた事に
気付いた私は
思わず硬直してしまったが
直ぐに笑顔で誤魔化した

「まぁ良いけど・・・アンタが楽しめる所か・・・」

少し腑に落ちない表情をした
ボリスだったが
直ぐにいつもの
ニカッとした笑顔で

「おいで!!ユズでも楽しめる奴を紹介するからさ」

そう言い私の手を取り
ボリスは走り出した

『ふぇっ!?』

いきなり引っ張られた
私は情けない声を上げ
しかし躓く事は無く
ボリスに引きずられていく

「あっ!!そうだ!!」

『ふぎゃっ!!!』

何かを思い付いた
ボリスが急に止まった為
後ろにいた私は
ボリスの背中に顔面を
強打する羽目となった

『なっ何?』

未だにジンジンする
顔を押さえて若干
涙目でボリスを見れば
ボリスは少しだけ目を見開いた
しかし直ぐに笑うと

「なぁユズ、少しだけ目を瞑っていてくれないかな?」

『はい?』

「少しだけで良いんだ」

ボリスの発言に
思わず聞き返した私に
ボリスは少し
私に顔を近付けつつ
もう一度言葉を紡いだ

『・・・・・・・・・分かった』

目を開けたら
ジェットコースターという
変なオチにならない事を
願いながら
私は静かに瞳を閉じた

私が瞳を閉じた事を確認すると
ボリスは私の腰に手を回した

『っ!?何しt』

私の言葉が言い終わる前に

ガチャッ

とドアが開く音がした

その瞬間
腰に触れていた手が離れ
何かの乗り物に
乗っている感覚を感じた

「もう良いぜ」

ボリスの声にハッとすると
ゆっくりと閉じていた瞳を開いた

ボリスが腰に触れた時に
瞳を開かなかった
自分はどうかしているんじゃないかと
本気で思ったがまぁ良いか・・・

『っ!!!!!!!』

目の前に広がる光景に思わず
声が出なかった

昼はいつの間にか夕日に変わり
遊園地全体を朱色に照していた
それが一望できる
観覧車に乗っていた

『すごく綺麗だね・・・私初めてみたよ・・・こんなに綺麗なもの・・・』

一生懸命に言葉を出すも
この光景を言葉に表すことなど
出来なかった

「ユズが喜んでくれて良かったよ」

ニカッと笑うボリスに
つられて私も微笑むと

唇にそっと何が触れた

目を見開らくと
すぐ目の前にボリスの顔があり

『えっ?えっ?えっ?』

狼狽える私を見て
ボリスはまた微笑えんだ


鈍感な君に触れるくらいの口づけを




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