sunny spot

□04
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VIP席は部屋の奥まったところにあって、周りの目があまり届かない場所にあった。

蓮チャンは席に着くと、俺のタバコに火をつけて、注文した酒を注いで作って
両手を添えて、俺に差し出した。


「めっちゃ慣れとるやん」
「そうか?…ずっと見てたからかな」


その動作はそこらの嬢よりもよっぽど上手くて。


「かわええなァ」


さらり、と頭を撫でる。

てっきり俺は、「そんなことねぇ」っていう否定の言葉が返ってくるか、「似合わないだろ」っていう自嘲の言葉が返ってくるかと思ったが


「ありがとう」


蓮チャンは少しだけ顔を赤くして、嬉しそうに微笑んだ。



「…好きなんか?そういう服」

「うん。…でも、あんま着る機会なくて」

「そうか。よう似合っとるわ」

「ふふふ」


ぶっきらぼうで、口調と同じく男っぽい性格なんかと思ったら。

意外と
素直で、可愛い。


口数は少なくても、蓮チャンの横は、この空間はとても心地が良いもので。

嬢としてでも十分にやっていけただろうなと思った。




「…蓮チャン」

「?」



「今週末でやめるって本当か?」



しかし、話題を変えた瞬間、その空気は一変した。



「どうしてやめんの?」

「…あんたには関係ないだろ」



初めて会った時と同じ
警戒心丸出しで、何重にも分厚いバリアを張っている。

怯ませるような凄みは効かせていなかったけれど、これ以上聞くのを躊躇わせる冷たい口調で。

だが

「やめてどこへいくん?」

「…」

「やめて頼れる人はいるん?」



生憎と、俺は南のように脆いメンタルではない。

蓮チャンの手を握り、距離を詰めて
いくら嫌がろうと、口を割るまで聞き続ける、と、力を込める。



「アテはあるんか」

「…っ、いいかげんに…っ!」



「教えてくれへんのなら、力ずくででも聞くで」



我ながら、大人気ないとは思った。

南相手にあそこまで凄める肝の座ったこの子でも、所詮は小柄な女の子

密室で2人っきり
しかもこんな見た目と体格の男に凄まれて
少しも恐怖を感じないわけがない。

ごくり、と唾を飲み込むのを確認して、少しだけ力を抜く。



「…なん、で?」

「…あ?」

「なんで、アンタ、俺にそんな構うんだ」

「…それは」



言葉に詰まる。

自分自身、分かっていなかった。

どうしてこの少女に、ここまで執着するのだろうか、と。



なにかを話さなければ。

今度は俺が、ごくりとつばを飲んだ。




その時







「親父ぃぃいいいいいいぃぃ!!!」







この場に似つかわしくない、野太い声が響いた。

それは、俺がよく知る声で



「「南/(さん)…!?」 」


声が被って、ほとんど同時に蓮チャンと立ち上がった。


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