sunny spot

□04
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木曜日
俺は一人だけでブルームーンに来ていた。

予定は全部投げ出して。若衆も舎弟も全員置いてきて。


「いらっしゃいませ」


ボーイに通されて、店に足を踏み入れる。
目的の人物はただひとり。


「…いらっしゃい、ませ」
「おう」


目の前で頭を下げる嬢を通り越して、店の奥で働くボーイに目を向ける。


あの子はどこだ
あの子はあのボーイの中のどれだ

金色の髪、160cmくらいの、小柄で



「…あの、」


そうそう、こんな風に
綺麗なのに、わざと潰したような
わざと低くしたような声の


蓮チャンはーーーーーー




「…あ?」



ふと
声の主
目の前にいる嬢に目を向けた。


ふんわりとしたピンク色のドレスに
薄づきの化粧
髪は花の髪かざりをつけただけ

シンプルな装いは、嬢の素材の良さを強調していて
とても美しかった。


嬢は大きくて、少しつり上がった目を不安げに揺らして
俺をじっと見つめる


「…蓮チャン!?」


場所を忘れて、俺は大声で叫んだ。

黒い服に身を包み、綺麗な髪は束ねているはずの蓮チャンは
嬢の装いをしていた。


「…オーナーが、ひとり足りねぇからって…
ヘルプなら俺でもできる…って」

「足りひんって…」

「もうすぐ嬢が来るから…それまで俺で我慢してくれ…ください」


ちらりと店を見渡すと、接客中のオーナーと目が合った。

オーナーは少し微笑んで、ぺこりと頭を下げた。



ーーーーーああ、そういうことか。



「…金はいくらかかってもええ。一番ええ席に案内してくれるか。ほんで、酒も一番高いのん、とりあえず3本持ってきてもらおうか」

「え、あ、か、かしこまりました!」

ボーイは慌てて俺の荷物を持ち、俺と嬢をVIP席に案内する。

「ほいで、この子を指名するで」
「…え?」
「今日は最初から最後までこの子だけや」
「ま、じまさん…?」
「別にええやろ?」

蓮チャンは困惑した表情を浮かべて、うろうろと視線を泳がせて、オーナーの方に向ける。

オーナーが目で返事をしたことで、
困惑しながらも、蓮チャンは「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「(粋すぎるやろ。凄い人や)」


オーナーに感謝しつつ、蓮チャンの肩を抱いて、VIP席に向かった。
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