sunny spot
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「はぁ!?どういうこっちゃ!!」
騒がしかった店内が一瞬にして静かになり、視線が自分に向くのを感じて
初めて自分が大きな声を出したこと、持っていた酒を落としたことに気がついた。
「真島さん」
「…すまん」
自分にかかった酒をおしぼりで拭いてくれながらも、目はしっかりと「騒ぐな」と語っているオーナーに素直に謝る。
…いや、ほんまこのオーナー大物やな…。
一瞬、かつて、大吾が会長の座に着くまでの間、東条会会長代理を務めた女帝を思い起こし、いや、今はそれどころじゃないと首を振った。
「蓮チャンが辞めるて…なんでや?」
自分がこの店を気に入り、足しげく通うようになった一番の理由は、あの子に惹かれるものがあったからだ。
今日だって、席に着くやいなや、キャバ嬢でもないただの黒服のあの子が休みかどうか尋ねてしまうくらいには気に入っている。
それが、来週で辞めるって。
一体どういうことだ。
「それは言えません。従業員のプライベートですから」
「は、」
「オーナーとして客に伝えるわけにはいきません」
オーナーの対応は間違っていない。
自分だってかつてキャバレーもキャバクラも経営していた。こう答えるのが当たり前だ。
けれど。
どろりと黒い感情が腹から湧き出る感覚がして。
感情のままに怒鳴り散らして問い詰めようとする自分をどうにか押さえ込んで、落ち着かせる。
「…あんまり長く同じところには止まりたくない事情でもあるのかしらね」
「え?」
独り言のようにオーナーが呟いて。
「来週のシフトは木曜日の1回だけなんです。
もし気になるのなら、その時に真島さんから聞いてくださいな」
オーナーの目の奥には、期待のようなものが秘められているように思った。
きっと、本当のやめる理由をオーナー自身も把握していないのだろう。
「…分かった」
そのチャンスを逃せば、永遠にあの子に会えない。
理屈じゃなく、直感がそう告げていた。