sunny spot
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「なんでも好きなモン頼んだらええで」
店に入るやいなや店員はギョッとして確実に真島さんにビビっていたが、オーナーだろうか。落ち着いた雰囲気の初老の男性が奥の席に案内した。
周りの客からもあまり見えないこの席はこちらとしても有難い。
あの人はこういう客に慣れてるんだろうか。
…じゃない。それよりも。
「…なんでも頼んでいいって、遠慮しろってことか?」
「…は?」
「タテマエでそういうこと言ってるんですか」
「…あー、えとな、建前やなくほんま。ほんまになんでも好きなモン好きなだけ頼んでええんやで」
ありがとうございます、と礼を言うと、真島さんはええでええでとニコニコと笑った。
メニューはケーキには写真が付いていて、どれもこれも色鮮やかで美味そうで。
コーヒーは割とすぐに決まったのだが、ケーキは決まらない。
…真島さんからいくらでも食べていいと言われた。サイズが分からないが、とりあえず3つくらいなら食べられるはず。
悩み抜いてストロベリータルトとモンブランとチョコレートケーキの3つに絞って、真島さんにアイコンタクトを送ると、察した真島さんが手を上げて店員を呼ぶ。
エスプレッソとケーキを3つ頼むと、真島さんはさんはプッと吹き出して、仰山食べるんやなぁと笑った。
「蓮ちゃんはなんや、外国人なんか」
「…え」
どくり、と胸が跳ねた。
「日本語あんまし使い慣れてないし
そのコーヒーの飲み方もなんかちゃうし」
エスプレッソに大量の砂糖を入れて、一気に飲み干して
底に溜まった砂糖をスプーンですくって食べていたが、どうやら日本ではあまりそういうことはしないらしい。
それから、遠慮はいらないと言われても、少しは遠慮するのが普通らしい。
ケーキ3つ注文は、普通はしない、と。
「…そう、なんですか」
「ああ、いや別にええんよ。そこは気にせんで。
…ほんで、お嬢ちゃんはどこから来たんや?」
ぐ、と、押し黙った俺を、真島さんは何も言わずにじっと見つめた。
俺が何か言うまで、このままなんだろう。
少しだけつり上がった目
コーヒーのカップを持つ手
無造作に組まれた足
なにもかもが「逃がさない」と言っている
暴力が怖いわけじゃない。この人には人を従わせる「何か」がある
俺はそれから逃れるだけの器量がない
抗うことも逃げることも無理だった。
…けど
「…イタリアにいた」
なぜか、恐ろしいとも、むかつくとも思わなかった。
何を話しても受け入れてくれるような、そんな気がした。