sunny spot
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「来てくださってありがとうございます」
その夜。
後3年はこないな高級な店に行けそうにない若衆(南含め)を何人かと、いつも貢献してくれている中堅も何人か、割と大所帯で店に顔を出した。
オーナーも嬢を兼任しているらしく、ドレスで着飾っている。
私服のオーナーも美人だったが、紺色のドレスにシンプルな髪飾りをつけたオーナーもまた素晴らしく美人だった。
「お席へどうぞ」
オーナーは流石というべきか、慣れない若衆のために指名云々は後回しにし、とりあえず席に着かせ、何人か嬢を充てがう。
着いた女もまたハイレベルな嬢ばかりだった。
けれど、ついてくれた嬢の中にも、この店の嬢の写真の中にも「あの子」がいない。
「真島さん、だれか気になる女の子はいますか?」
「ん?あぁ、俺は昼間会うたあの気ぃの強い嬢ちゃん指名したいねんけど」
「え…」
「ほれ、蓮ちゃんやったか?」
「蓮ちゃんですか?ごめんなさい。蓮ちゃんは…」
申し訳なさそうに言うオーナーの視線の先を辿ると、飲み物を運ぶ黒服の姿があった。
腰まではあるであろう長い髪を束ねている
痩せ型で
男にしては小柄でーーーーー
「…あの子、男なんか?」
「いえ、れっきとした女の子です」
「そうやよな、あんな可愛らしい顔した男がおってたまるかっちゅうねん」
その黒服はどう見ても、昼間会った蓮ちゃんで。
「蓮ちゃん、そんなに喋る方じゃないし、ほら、喋り方も仕草もこう…男の子っぽいし」
「アレか?今話題の女やけど男になりたいっちゅう…」
「そんなんじゃないと思います。
けど、接客向きではないですから。本人の希望もあってボーイさんとして働いてもらってるんですよ」
「ほぉ」
性別は女で、性同一性障害というわけでもないが、接客にはあまり向いてないから嬢ではなく黒服をやってるらしい。
そう言われるとまあ理解できる。
ここにいる嬢のようにきゃぴきゃぴと喋る姿など想像できないし、オーナーのように色気たっぷりの接客もまた想像できない。
理解、できるが。
「残念やわ…」
今日ここに来たのは9割5分があの子と話すためだった。
そのあの子が嬢でないとなると、気分も萎える。
「ごめんなさい。真島さん」
「あの子が良かったわぁ〜」
「他の女の子もなかなか上物ですよ」
オーナーは俺の機嫌を取りながら、でも、と続ける。
「蓮ちゃんはボーイなので、嬢のような扱いはご遠慮くださいね」
なんでもないような言い方で、でも、確かに牽制を含んでいた。
「…随分と大事にしとるんやなァ」
「もちろん。私はこの店のオーナーで、蓮ちゃんはこの店の従業員ですから」
「ほぉ」
「どうぞ、飲んでください」
オーナーが作ってくれた酒は、濃すぎず薄すぎず、絶妙で。
「ほな今日はオーナーはんに相手してもらおうかのう」
「ありがとうございます」
その日
酒や食べものを割とたくさん注文したが
結局俺の席に蓮ちゃんがモノを運んでくることは一度もなかった。