トビ長編夢・籠の中の青い鳥
□幻想郷に住まう姫
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ある、嵐の日のこと。
風は魔物の唸り声のような凄まじい音を立てて草花をなぎ倒している。
名無しさんは耳を塞いで怯え、カカシは彼女を抱き締めていた。
「名無しさん姫、安心してください。私がお側についています」
「安心するって、どういうこと……?」
名無しさんは自分の中に沸き上がる感情に戸惑い、混乱しているようだ。
「それは、心が落ち着くことです」
「そうなんだ。じゃあカカシが安心させてよ……私には安心なんてできない……」
カカシはその言葉を聞くと、名無しさんの顔を自分の胸板に埋めさせた。
そして、ゆっくりと髪を撫でる。
自分の中に沸き上がる燃えるような感情と闘いながら。
どのくらいそうしていただろうか。
少し名無しさんが落ち着きを取り戻し始めた、その時。
誰かの叫び声がして、いろんなものが壊れる音がした。
名無しさんの体が一気に強張る。
カカシは名無しさんから離れると、分身を残して部屋を出ていった。
「誰だ、出てこい」
カカシは全身の神経を左目の写輪眼に集中させた。
女官達が逃げ惑い、死んでいく。
その先には、柿色の仮面をした男がいた。
次の瞬間、その男の姿が消えた。
カカシははっとして、名無しさんの部屋へ走る。
もうそこに分身の姿はなく、仮面の男は名無しさんを横抱きにして去ろうとしていた。
「待て!」
そう叫ぶと男は仮面の穴から赤い目を覗かせ、楽しそうに歪める。
そしてそのまま、ふわりと消えた。
カカシは呆然と、その場に立ち尽くしているだけだった。