トビ長編夢・籠の中の青い鳥

□暁という組織
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一瞬の出来事に、名無しさんは怯えることもできず、呆然としていた。
気が付くと、そこは見たこともない、綺麗な場所。
窓から高い塔の建ち並ぶ里が一望できる。

名無しさんはやっと自分が抱き抱えられていることに気づき、その男を見上げた。
仮面の奥の赤い瞳がこちらをじっと見つめていた。

「あの、あなたは……」
「ボクッスか?ボクはトビって言います!よろしく!」

仮面の男はおどけた物言いをする。
名無しさんは少しほっとしたようにトビを見上げた。

「私は名無しさん。よろしくね」

そう言ってから、ふと真面目な顔になってトビに問う。

「今、なんだかすごく落ち着いて、気持ちが軽くなったの。これが安心なのかな?」
「きっとそうッスよ!」

その明るい声に、名無しさんは少しだけ微笑んだ。

「あ、笑った!」
「笑うって、何?」
「ほら、こういう顔のことッスよ!」

トビは部屋にある大きな鏡のところまで行き、名無しさんに見せる。
そこには、楽しそうな表情の名無しさんが映っている。

「これが、笑う……」

名無しさんは初めて知った感情を心に刻み込むように、呟いた。
すると、襖の外で男の声がする。

「マダラ、いるか?」
「ああ、入ってこい」

トビの声が一気に変わり、名無しさんはまた体を強張らせる。
それを落ち着けようと、トビは優しく名無しさんの背中を撫でた。

「ボクには仲間がいるんです。紹介しますね!この人はボクの部下で、ペインって言います」
「よろしく」

名無しさんは無表情のまま挨拶をするペインが少しだけ怖く感じたようだが、勇気を振り絞って挨拶をした。

「よろしく」

トビは名無しさんを驚かせないように、順番に一人ずつ部屋に入ってこさせ、紹介した。
同時に、人質にここまで配慮する自分に驚いていた。
まさか、と。
しかし、相手は感情すら知らない。
そんな恋が叶うわけがないと分かっていながらも、その美しい容姿や声、純粋さに、ますます惹かれていった。
 

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