トビ長編夢・籠の中の青い鳥

□幻想郷に住まう姫
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火の国の山奥に、幻想郷と言われる場所がある。
強力な結界が張ってあるので実際に見た者はいないが、そこに火の国大名の姫がいるのは確かである。
大名いわく、その姫は大層美しいため、他の男が寄り付かぬように、そこに住まわせ始めたそうだ。
山と山の間にある開けた土地で、木々が青々とした葉を風にゆらめかせ、草花は屋敷を彩る。
幻想郷に張られた結界は人間の立ち入りを一切禁止するが、動物には効かない術なので、時折鳥などが飛んできてはさえずっている。


名無しさんは付き人たちを障子の向こうにひかえさせ、庭を眺めていた。
紫苑の袿を身にまとい、黒い美しい髪を風になびかせている。

「名無しさん姫、そろそろ時間でございます」

控えめに声をかけたのは、はたけカカシという付き人。
付き人の中でも、学問、忍術に優れており、姫と対面することは出来ないが、唯一姫と話してもよいとされている。
灰色の髪に、木の葉の額当て、黒く美しい忍装束。
口当てで顔をほとんど隠しているため素顔は分からないが、端正な目鼻立ちという噂であるため、大名に警戒されている。
どうやら彼を付き人という役職に就けるときに、一騒動あったようだ。

「はい」

名無しさんはごくごく短い返事をして、立ち上がる。
その仕草は上品で、御簾ごしに見える彼女の姿は、まるで桜が咲き誇るような美しさであった。


名無しさんはカカシと共に、古書を見ていた。
それはどれも、火の国大名の先祖達が書き残したものばかりだ。
カカシはもっとたくさんのことを名無しさんに知ってほしかったが、
火の国大名の命令に逆らう訳にはいかない。
純粋な彼女の澄みきったその瞳が、
カカシには、すこし輝きが足りないような感じがしてならなかった。
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