lilac 2

□情けは人の為ならず
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ナマエはシリウスの一言を心の中で反芻しながら教室を出た。
「いやぁ、有意義な授業だったね!」
ジェームズは杖をくるくると回しながら先頭を歩く。楽しくてたまらない、とでも言いたげな表情だ。
「ナマエ、これ……何かな?僕の荷物に入ってたんだ」
リーマスが手紙を差し出した。宛先にはぎこちなくナマエの名前が書いてある。
「隅に置けないなぁ」
ジェームズはナマエの肩に腕を回した。

「え?なにこれ?」
「え?ナマエ、わざと言ってる?」
「え?」
ナマエとジェームズは首を傾げて見つめ合う。
「はぁ、ナマエはおこちゃまだねぇ……ラブレターだよ、それ。初めてナマエのところまで届いたね〜いっつも僕らが……」
「ジェームズ、口の縫い目が解れてるぞ」
ジェームズはシリウスに口を指さされてハッとした。
「そうだ!極秘だったね!」
「え?なんのこと?」
「何でもない!」
ナマエは唸りながら手紙を見つめる。
「送り主分からないんだけど……」
「そりゃあバレたら僕らに何されるかわから……」
「ジェームズ」
シリウスはジェームズの襟を後ろから掴んだ。
「……あ、おっと危ない!」
ジェームズは口の前で人差し指をバツにしてニヤニヤと笑った。


手紙を開けてみると、空き教室に6時に来て欲しいと書いてあった。
「何の用かな……」
ナマエは首を傾げた。
「ナマエがこんなに鈍くなったのは僕達のせいかもね、シリウス」
ジェームズはシリウスに力なく笑いかけた。
「……ノーコメントだ」


「ナマエ、行くの?」
リーマスが顔を覗き込みながら聞いた。
「んー、なんか用があるなら大広間とかでもいいと思うんだけど……誰だかわからないから一応行くかなぁ」
「危険じゃないかい?」
「ナマエにそんなに行って欲しくないのか?」
シリウスはニヤニヤと笑いながらリーマスの肩に腕を回した。そして耳元で何かを囁く。
「違う!!!シリウス、勘違いしないでくれるかい!?
僕はただ危ないことになるんじゃないかって……」
リーマスの言葉を、シリウスは首を横に振りながら流した。
「人気者にはファンがつくもんだ。
いいぜ、途中まで俺がついてってやるよ」



「で、わかるか?呼び出しの意味が」
呼び出された空き教室。シリウスはニヤニヤしながら聞いた。
「教科書かなんか、誰かに貸してたっけかなぁ……思い当たるフシがないんだけど……」
「はぁ、違うっつーの。
呼び出しってのはなぁ……告は」
「やぁ、ナマエちゃんにシリウスくん」
ナマエは声を聞くなり反射的に杖を構えた。
「怖い顔しないでくれよー。せっかくの可愛いお顔が台なしだ」
そこにはピーターを殴ったスリザリン生が4人。シリウスは持ち前の頭の良さで状況を理解したようだ。
「ナマエ、お前は逃げろ」

「嫌だ」
ニタニタと目の前で笑う4人組をナマエは許していなかった。
その逆も然り、4人組も自分たちを突き飛ばしたナマエを許していなかった。
「多分、あっちも私を逃がす気はないよ」
「大正解!ブラックはおまけだな。調子に乗った可愛くない後輩だ」
どんどん隅に追い詰められる。踵が古びたキャビネットに当たった。
「逃げ場はないぞ。ナマエをどんな目に合わせてやろうか……」
「ふざけんな!」
シリウスはナマエを後ろに庇い前へ出た。
しかし、もうこれ以上下がれない。キャビネットに背中があたる。
「……シリウス」
「……なんだよ」
「ありがとね、何とかなりそう」
シリウスは首を傾げた。
「追い詰められる恐怖で気がおかしくなったか?」
4人組はどっと笑った。
「その言葉そのまま返すよ」
ナマエは後ろに手を回して、キャビネットを開けた。すると3体の真似妖怪が飛び出した。

「うわぁっ!!?」
真似妖怪はゾンビ、大きな蛇、4人のうちの誰かの母親に変わった。
4人が驚きおびえている間にナマエとシリウスは部屋を出る。
「……いつボガートがいるって分かったんだ?」
シリウスは部屋に魔法で鍵をかけた。
「シリウスが前に出て庇ってくれた時に背中にキャビネットがあたって……それで中になにかいるなぁって思って」
「……随分と賭けに出たな」
呆れたように笑うシリウス。
「にしても、効果絶大過ぎて驚きだよね。ボガートにこんなに手こずるなんて、ちゃんと授業受けてないの丸わかりだよ」
ナマエは鍵を解いた。
「え、いいのかよ」
「もう十分だよ、きっと」
「……ふーん」
扉を開けると、ナマエは授業で習った呪文を唱える。
「で、もう私たちに構わないでくれますよね」
腕を組んで仁王立ちをする。
「次、ナマエやピーターに何かしたら悪戯仕掛け人総力をかけてひどい目にあわせるぞ」
杖をくるくると回すシリウスをナマエは小突いた。
「とりあえずさ、もうやめようよ。
私たちに何か気に入らないことがあるなら言ってくれれば直すし……まぁ、そういうわけで、さようなら」
ナマエは中指を立てるシリウスを引っ張った。



「あんなんでいいのかよ」
「大丈夫でしょ!」
寮に向かう帰り道。シリウスは納得がいかないようでぶすくれていた。
「あ、さっきのことは私たちだけの秘密だからね!」
「は!?言わないのか!?」
「だって言う必要ないよ。何もなかったんだから」
「だからってお前……」
寮の扉の前に着いた。
「たまにはいいでしょ?秘密を共有するくらい」
ニヤッと笑うとシリウスは、ため息をついてから笑った。


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