lilac 2

□初恋
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あっという間に夕方になった。イギリスの夏の夕方は太陽が沈んでいないので昼間と同じような感覚だ。リーマスは今日のハイライトはピーターが見えない沖まで流されたことだ、と考えながら綺麗な貝殻を拾って集めるナマエを見つめていた。
「調子はどう?」
ナマエに近づいて話しかけると、彼女はいつもと変わらない元気な笑顔をこちらに向けた。
他の3人は遊び疲れてウトウトしていて、ジェームズの両親は少し離れたところでくつろいでいる。
「うーん。もう少し綺麗なの拾いたいの……あっ」
リーマスとナマエの手が1つの貝殻の上で重なった。
「あっ、ごめん」
反射的に手を退ける。
「ううん、それ私も綺麗だと思って拾おうと思ったの!」
ナマエはそれを受け取ると、立ち上がって膝についた砂を払う。リーマスはナマエを見上げた。そして、貝殻を握っている手を掴んだ。
「綺麗だね」
「リーマスも欲しい?」
ナマエの言葉に詰まる。とっさに掴んでしまった自分の軽率さに恥じらいを覚えた。そして、今まで薄々感じていたものが、確信に変わった。
「……あー、いや、平気だよ」
手を離すと、立ち上がる。
誕生日のときに真紅のドレスを着ていた彼女を直視できなかった。その理由ももう分かった。

自分よりいくらか背の低い彼女は、太陽に照らされてキラキラと輝いていて、でもどことなく自分よりも大人びていて美しかった。遠くを見つめる彼女の黒い瞳には、世界はどのように映っているのだろう。そんなことを考えていて、気付けばナマエをじっと見つめていた。
「どうかした?」
首を傾げるナマエに、リーマスは微笑んだ。
「今日のナマエの格好、すごく素敵だなって思ってたんだ」
やっと言えた一言に、ナマエは照れ隠しなのかえへへ、と笑った。
「ありがとう。……今日、すごく楽しかったね」
みな、一日中はしゃぎ回って疲れはしたが、とても満たされた気分だった。
「……ずっと続いてほしいな……」
この時が終わらないで欲しいと心から思った。ずっと2人だけのこの世界が続いてほしい。ただ隣で彼女を見つめているだけで、こんなにも心が満たさせることに気づいてしまったからだ。
「そうだね、僕も続いてほしいな」
リーマスはナマエの手を握った。
「ずっとみんなで一緒に笑っていたいね」
そう言ったナマエの指先に力が入ったことに、リーマスは気付かないふりをした。
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