lilac

□悪戯
1ページ/2ページ

クリスマス休暇も終わり、しばらくが経った。
ホグワーツ城は相変わらずとても冷えている。

「……で、なんで逃げてるの?」
ナマエとシリウスの2人は息を潜めて空き教室のクローゼットの中に隠れている。
決して寒さのため暖をとっているわけではない。


――遡ること10分前。
5人は珍しく平和に、中庭で遊んでいた。1年生ながら悪戯好きで有名な2人にしては非常に珍しいと、先生方なら言うだろう。
しかし、ナマエがいるときはジェームズもシリウスも悪戯を控えていた。(ナマエさえいなければ悪戯ばかりするが。)


「だいぶ前に君たちに投げた物、気にならないかい?」
ジェームズが後ろ手に何か隠しながら聞いた。前に投げたものというのは、ハロウィーンの頃にシリウスがナマエたちに投げたもののことだ。
「うーん……確かに気になるかも」
「あの黒焦げだったやつ?」
「あの時は怖かったなぁ……」
ジェームズは3人の反応に満足しているようだ。
「実は……あっ!」
ジェームズの後ろから何かが落ちた。
それはコロコロと転がり、中庭に面した廊下を横切った。
「ジェームズ、あれって……」
シリウスはひきつった笑いを浮かべている。
「ん?あれって爆発するんでしょ?」
ナマエが指さしてシリウスに聞くと、シリウスはその手を握った。
「爆発する!
フィルチの奴が来る!」
「あー、ごめん!
じゃあみんな、後で談話室で!
シリウス、ナマエは頼む!」
ジェームズはリーマスとピーターを引っ張って駆け出した。その直後、爆発が起こり、少しするとフィルチの声が廊下に響く。

シリウスはフィルチの声がした方の反対の廊下を直線に走ると左に曲がり、次の突き当たりを右に曲がった。
「ずいぶん慣れてるね」
「何回こんな目に合ってると思ってるんだ。
隠れ場所ならいくらでも知ってるぜ」
シリウスナマエを連れて近くにあった空き教室に飛び込んだ。



――そして今に至る。
「フィルチに捕まって罰則受けたいなら……」
「あぁ!ごめん!
ここまで引っ張ってきてくれてありがとう、シリウス君!」
シリウスはクスッと笑った。しかし、すぐに真剣な顔つきでこちらを見る。
「……なぁ……懐かしくないか?」
「ん?なにが?」
「……やっぱり何でもない」
意味がわからず首を傾げる。シリウスは気にするな、とだけ言うとクローゼットを開けた。そして教室の扉まで歩いていき、少し開けて外の様子を確認する。

「ふぅ、全くジェームズもやらかしてくれるよね」
まだ胸はどきどきと音を立てている。意外にもこの高鳴りは嫌いではない。
「まぁ、それがジェームズだ」
シリウスは扉を閉じて、クローゼットまで戻ってきた。
「もう大丈夫だと思う」
「イエッサー!」
ナマエは、にやりと笑ってクローゼットを出た。




「ナマエって、俺のこと嫌いなのかと思ってた」
寮までの階段を上がっている途中、シリウスが小さい声で言った。
「そっちこそ!」
ナマエが大きな声を出し、シリウスはうるさそうにナマエを見る。
「最初はジェームズにからかわれたこともあったからな」
「あ、ナンパの件ね。
私は嫌いではなかったけどムカついたかな」
ナマエはクスクス笑いながら言った。
「……なぁ、やっぱり覚えてないのか?お前、ナマエだよな……?」
シリウスはこちらを見ずに聞いた。
「正真正銘ナマエだけど、どうかした?」
シリウスの顔を覗き込む。
「……ううん、何でもない。
で、今は俺の事どう思ってるんだよ!」
一瞬、彼の瞳が悲しそうに見えたが気のせいだろうか。すぐにいつも通りの笑顔を向けられたので、ナマエは深く考えなかった。

「今は友達だと思ってるよ。
よく、ムカつくけど」
「最後の一言が余計だな」
二人は笑い合った。






それからというものの、ナマエはフィルチから逃げていた時の心臓の高鳴りが忘れられなかった。今までに体験したことのないスリル感。それがナマエの今後に大きな影響を与えることになろうと、まだ誰も知る由もなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ