作品3
□2014☆夏企画
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リクエスト内容
[煮詰まるヒロインを連れ出すイゾウの話]
世間は夏休み。
海やプール、キャンプでバーベキュー、花火。
楽しいことはたくさんある。
なのに。
「なんでエースと追試なのぉぉ」
「二人揃って何度も赤点出すからだろ?夏休みに食い込んでも、チャンスくれるいい先生じゃねぇか」
そう。
優しい先生が、青筋立てながら明後日のテストでそれなりの点を出せば夏休みの大半を補習で過ごさなくていいように救済処置な最後の追試を提案してくれた。
だから親友のエースの家で勉強してるんだけど。
「全然わかんない」
「らしいな」
エースのお兄さんのイゾウさんが、パッとノートを見ただけでここが違うと笑っている。
イゾウさんってステキ!みたいな話をすると、いつもエースは微妙な顔をするんだ。
他のお兄さんを褒めても、そんな顔しないのに。
今日のお祭りに備えてか、イゾウさんは浴衣を着ていて、パタパタとうちわであおいでる。
汗で首に張り付いた髪ですら、色っぽい。すごい。似合い過ぎ。
お祭りはイゾウさんに誘われたし、私も行きたい。
けど、何のために今こんな暑いとことにいるのか。
「もー、エースも起きて頑張ろうよ!夏休み遊べないよ?」
「ほっときな。エースは補習したいのさ」
「えー!」
教科書とノートを見ながら勉強を再開するけど、やっぱりわかんない。
エアコンがないエースの部屋で、涼といえば扇風機の風だけ。暑くて汗がじわっと出る。
あと一時間もすればお祭りが始まるし、花火大会だってある。
「ナツコ、祭り行くだろ?」
「……一夜限りのお祭りと夏休みなら夏休みを選ぶべきかと」
自分にしては賢い選択をしたつもりだった。
「ほう?」
イゾウさんの声に凄みがあって顔を上げれないでいたら、ばしゃばしゃと水を被った。
水じゃなくて、まだ1リットルは入ってた麦茶だ。
驚きながら顔をあげれば、イゾウさんが空のペットボトルを持ってニッコリ笑っている。
「手が滑った。服は今から洗濯するし、浴衣着せてやる。勉強も明日みてやるから問題はないな?」
「ええっと」
「ないな?」
【絶対的微笑】
お祭りも花火も楽しかったし、テストはイゾウさんのおかげで大丈夫だった。
「おれ、いつかナツコのこと、姉さんって呼ぶ日がくんのかなぁ」
「来るかも。もうイゾウさん以外でお嫁に行けないもん」
「まじかよ」
思い出すのは、騒ぎながら着せてもらった浴衣。
Title by 恋するブルーバード