作品3

□2014☆夏企画
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普段の息子らしからぬ奇行に呆気に取られる白ひげを他所に、イゾウは不気味な笑い声をつづけながらステファンの毛皮の感触を楽しんでいる。
だが最初こそ驚き固まっていたステファンは、いち早く我を取り戻すと身をよじりイゾウの腕から脱出を試みた。


「わう、わう…」

「ははは、ステファンは可愛いなァ。」

「……イゾウ、放してやれ。」


しばし傍観していた白ひげだったが流石に可哀想に思ったのだろう、助け船を出してやる。するとイゾウは「おう。」と返し思いの外あっさりとステファンを解放した。
床に下ろされたステファンは若干拍子抜けしながらも、警戒を怠る事は無かった。何せ今のイゾウは彼のよく知る普段の「イゾウ」では無いのだ。油断していればまた何をやらかすか分からない。早く安全な場所に逃げなくては。
そう考えたステファンは白ひげの顔を見上げると次の一手に出た。


「わふわふっ!」

「グララララ、分かった分かった。…ほらよ。」


ステファンの「おねがい」を心得ている白ひげは、いつもやっているように大きな手で小さな家族の身体を優しく掬い上げると膝の上に乗せてやる。そして人差し指でその頭を撫でると


「甘ったれがァ。」


と呟き再びグララと笑った。
まるで孫とのひとときを楽しむ翁のようなその姿に、普段のイゾウならば「邪魔をしては駄目だ」と空気を読むだろう。だが、ステファンの考えは甘かった。先ほど彼自身も思った通り、今のイゾウは普段のイゾウでは無い。


「いいなァ、ステファン!俺も混ぜて貰うかね。」


言うなり「よっ」と掛け声を漏らすと白ひげの膝に登り腰掛けたのだ。
これには流石の白ひげも驚いた。
エースやナツコならともかく、このイゾウという息子は親の前でもなかなか素直にならないというのに、今日に限ってどうしたというのだ。
だが、白ひげはイゾウの顔を見るなりすぐにその「理由」に気が付いた。


「……アホンダラァ。」


呟いた白ひげは人差し指を息子の背中に添え、トントンと優しいリズムを刻み始める。するとイゾウはいくばくも経たぬうち…というよりは意識を失うように瞼を下ろし、まるで幼い子供のように白ひげの胸に身を預け小さな寝息を経て始めた。


「……アホンダラァ。」


白ひげは、もう一度そう呟いた。











「……何してんだよい、ナツコ。」


単独での偵察から帰還したマルコは報告の為に船長室を訪れた。
だが彼の目に入ったのは、事務室で仕事をしていたはずの部下が床に這いつくばって、犬ドアから船長室を覗き見している姿だった。


「あ、隊長お帰りなさいです。」

「おうただいま。…で、何してんだい?」


不恰好な姿勢のままに挨拶をするナツコに、呆れたような視線を向けながらマルコは再び問う。するとようやく立ち上がった彼女はばつの悪そうな顔をしつつ


「イゾウ隊長が、壊れました。」


と言い船長室の扉を指差した。
「はぁ?」そう呟いたマルコが首を傾げた時、部屋の中から白ひげが


『コソコソしてねえで、入ってきやがれェ。』


と幾分かトーンを落とした声をかけてきた。
顔を見合わせた二人は、ノックをして恐る恐る扉を開ける。そして目に入ってきた「もの」に暫し絶句し立ち尽くした。


「…部屋に運んでやれェ。」


そんな二人をそう促すと、白ひげは今一度膝の上で眠る息子の寝顔を見詰めた。

疲れきった顔で眠る、普段は斜に構えた息子の久方ぶりに見せる幼い寝顔。

それに僅かに頬を弛めると、起こさぬ様に殊更に気を付けて抱き上げ、歩み寄ってきたマルコに預けてやる。
そして今度は横のナツコを見ると、


「珍しいモンが見れたなァ。」


と茶目っ気のある笑顔を向けた。








翌朝、ナースを初めとした一部クルーの間では、イゾウの貴重な寝顔を収めた写真が高値で取引されていた。
誰が撮ったのか、また撮った人間がその後どうなったのかは、押して知るべし。
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